平日は家事、土日は育児やママ友のイベントなどなど、
そんな煩わしいことでたまったストレスを「同窓会で出会った初恋の人と……」という
ベタな妄想でしか吐き出す事ができない人妻ばかりが住む街・落合南長崎。

そんな場所でまさかのトキョめきと出会った。

その日は図書館にいた。
仕事で使う資料を借りに行ったのだが、
必ずと言っていいほどドラゴンボールを熟読してしまう。
そこそこのおっさんが子供に紛れてドラゴンボールを読むというのは
客観的に見て危ない人であり、“大人が子供に近寄らせたくない大人”の部類に入る。
でも、そんな事はおかまいなしに「フリーザとの激闘で死んだクリリン」に思わず感涙……。
そんな時、こんな注意書きが目に入る。

tesuri

違和感。
でも、オトナなので手すりが修理中だから「さわらないで」という注意書きだと解釈する。
「手すりがさわれないなんて矛盾してる!」なんて子供じみた事でいちいち文句は言わない。
もうオトナなんだから。
しかし、この図書館には安藤裕子似のボクがいつもチラ見する図書館司書がいた。

anndou

景色が一変した……

この張り紙が急にツンデレなメッセージに思えてきた。
「手すりだけど、触っちゃダメですよ♪」
そう思うとただの手すりも急に心ざわつかせるアイテムになる。
「えっ、これってさわっちゃダメなんですか? 触りたいっす……
 でも、触っちゃダメだって言われてるし……触ったらどうなるんですか?」
そんな事を頭の中で呟きつつ、
ボクはガマンできず、子供たちの視線をエールだと受け取り、人差し指でそっと触ってみた。
特に何も起こらなった。

そして、カウンターで例の安藤さんに
「あれって、手すりなのに触っちゃダメなんですか?」と質問しようと思ったが、
気後れ全開で結局何も言えず、うつむきながら本を受け取る。

でも、ボクはそれ以上彼女を見ることができなかった。
図書館の司書らしくない爽やかな笑顔に圧倒されて、
ぎこちない笑顔しかできないボクが恥ずかしくなってしまったから。


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