現代の“サラリーマン&OL”を千利休が生きた戦国時代の“サムライ”と解き、会社の“給湯室”を“茶室”に見立て、大胆な解釈によるニュータイプの茶道でグローバル経済戦争をしのぐ方法を指南する、新進気鋭の流派「給湯流」。
 
家元・谷田半休氏のユーモラスな企画、そして“我ら日本人のアイデンティティを取り戻し、それをもって世界へ打って出なければ”という気概により、その躍進はとどまるところを知らない。
 
そんな給湯流が、「グローバル経済にはワビサビが必要で候!」というスローガンを掲げ、渋谷・アップリンクとタイアップしてはじめたのが『給湯流 ワビサビジネススクール』。
 
“ワイン片手の外国人に「日本文化ってナニ?」と聞かれたとき、さらりと答えられる社会人を育成する、初心者向け日本文化講義・茶会実習シリーズ”というコンセプトのもと、「その文化が立ちあがった頃の需要と供給はどうなっていたのか?」「当時の物流システムは?」「損益分岐点は?」といったビジネスパーソンが得意とする視点で見ることで、日本の伝統文化を理解しようという実験的な講座だ。
 
次の週からすぐ給湯室で抹茶がいれられるようになる「給湯流☆ミニマム茶道教室」なるミニ茶席も併催される。
 
その第一回『縄文土器をじかに触って研修だ! 縄文時代のマーケティング&給湯流茶道教室』が、古美術・祥雲 店主の関隆氏を講師に迎えて2012年6月10日に開催された。
 
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会場は2階、と案内され、エレベーターに乗り込む。扉が開くと……ヨガマットに正座したスーツ姿の男女が!?
 
「あ、どーもどーも、今日エレベーターが掛け軸で」
 
振り向いて言うのは給湯流家元・谷田氏。
アップリンク2階のエレベーター前が今回の茶室だった。
 
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“刀&さや”に見立てた“IDカード&ホルダー”を入口で外し、“仕事上の壁”に見立てた“瓦せんべい”を日頃の鬱憤を力に変え手刀打ちにて一口サイズに砕き、“懐紙”に見立てた“名刺”にのせて肩書きを茶化しつつ戦を離れた非日常感を満喫しながらいただく。

そして、侘びを追求した利休が敢えて使用した雑器“井戸茶碗”よろしく家元が世田谷のリサイクルショップで入手したというセーラームーンの“子供茶碗”(ほかにも三本脚の「PLAN・DO・SEE茶碗」などバリエーション豊富)で抹茶を一服。


家元の見立てのセンスには、毎度のことながら脱帽である。
何より、今回特筆すべきは、先述の“掛け軸”だ。
 
「アメリカのシリコンバレーで、ある若手起業家が、投資家が出入りするオフィスのエレベーター前で待ち伏せし、偶然エレベーターに乗り合わせたふりを装い、短いプレゼンをして資金調達にこぎつけたという逸話があるんです」(家元)
 
このサクセスストーリーからできたビジネス用語「エレベータートーク」になぞらえて、今回の掛け軸は“エレベーター”とあいなった。というわけで、茶室=給湯室ではないが、この妙案に免じてご容赦いただきたい。
 
さらに今回は、第二の掛け軸として、家元がこちらは京都のボロ市で入手したという、“ユンケルのタモリ人形”が用意されていた。

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「タモリといえば、赤塚不二夫に一発芸を見せて気に入られるという、まさにエレベータートーク的なことでサクセスへのきっかけをつかんだ人」(家元)
 
そんなサクセスを果たしたタモリが、ユンケルというサラリーマン&OLの心強い味方と姿を重ね、茶会の席を見守っていたのである。
 
一見ふざけているようでありながら、利休茶道の本質をとらえた給湯流の技、ここにあり。
こうしてトーク前に三席の茶席が設けられた。
 
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トーク会場に移ると、今回の講師である銀座の古美術店「祥雲」の店主、関隆さんが、縄文土器数十点を並べている。
 
「触ってみてくださいね~」
 
そんな貴重なものに、気軽なタッチで触れちゃっていいの? とビビりつつ手を伸ばしてみる受講生たち。素朴な外見からすると意外なほどに固くて、軽い。


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「時代ごとに価値観が違うだけで、縄文土器の完成度が低いわけではないんです」(関さん)
日本における日常の器は、時系列的には、土器→須恵器→陶器→磁器と遷移してきたが、縄文土器は、磁器や陶器よりも固くて、堅牢。外は縄目で、内側は研磨され、土に雲母を混ぜてキラキラさせており、イノシシの毛を混ぜて焼くことで強度を高くしていたのだそう。
 
「料理するときに必要がないはずの突起の装飾が付いているのがポイントです」と関さん。
 
社会関係の一部として経済関係が営まれていた当時、狩猟採集社会の物流システムは、贈与と返礼による物々交換。それは人と人だけでなく、人と自然を結ぶ原理でもあった。自然の恵みに対する返礼とは、自然の豊穣を祈ること。

狩猟してきた自然の一部を調理することで食べられるようにする土器は、いわばマジックボウル。その奇異ともいえる装飾には、感謝や祈りが表現されていたと見ることができる。


 
「縄文土器の装飾は、当時の豊かさを証明しています。食うや食わずでは装飾する余裕はなかったはずですから」(関さん)
 
ちなみに、縄文遺跡からは、殺された形跡のある人骨が発見されておらず、墓の規模には大小の差異がないという。人が人を支配したり殺し合ったりすることのない平和な世界観の中にわれわれの祖先は生きていたようだ。
 
また、当時は、距離の離れた村と村をつなぐ「仲買人」「マーケッター」がいたとする説もある。ないものを手に入れるために、あるものにいかに価値づけして交換するか工夫した。
 
1万年以上続いた、変化する必要がなかった時代。そこに学ぶことはまだまだありそうだ。
 
「縄文土器は、儀式や日常で使うとか、需要のもとに生まれたもの。神様に捧げるものかもしれないし、誰かが使うためのものかもしれない。

古美術っていうのはそういうもんです。

美術や芸術っていうのは、明治時代、近代に入ってきた、西洋のものさしなんですよ。本当は、古『美術』って呼び名は変えてほしいです。縄文土器は、近代の『美術』ではないのですから」。(関さん)


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必然性の中に宿る美。
 
話は、縄文とお茶の話に及ぶ。
 
「たて穴式住居と茶室には共通点があるんですよ」。

関さんはそれを「火があり、湯があり、最小人数がいる、安心できる空間」だと言う。
 
なるほど、そうかもしれない。紀元前145世紀(今から約1万6,500年前)から紀元前10世紀(約3,000年前)の縄文時代にも、15~16世紀の戦国時代や、21世紀の今と同じように、狭いけれど目の行き届く安心できる空間で、疲れを癒し、憩うための飲み物が供されていたにちがいない。
 
今回の縄文編にはじまり、「侘び寂び」コンセプトが盛りあがった戦国時代、江戸時代や明治時代について、それぞれの文化の専門家がビジネス的な切り口で講義していくという『給湯流 ワビサビジネススクール』。全10回(予定)の講義・実習のうち3分の2以上を受講すると「MBA(Matcha of Business Administration)」が授与され、向こう1年間、給湯流茶会に無料で参加できるそう。

text / Sayuri Kobayashi
photo/Sosuke Shimizu

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給湯流茶会、次回は2013年5月19日、東京の古美術と現代美術のギャラリーを集めた
活動をしている「アートフェア東京」事務局の給湯室で「五月病決算☆茶会」予定。

事務局は、鶯谷にある古いビルをリノベーションした魅力的なラウンジもあり
六本木ツタヤ近くのの巨大電光掲示板作品も有名な現代美術家
宮島達男さんの、鶯谷のアレにちなんだ作品を楽しみながらの茶会、
びっくり巨大1枚板会議テーブルの上にのっかる茶会
鶯谷のラブホを借景に下茶会など、バラエティーにとんだ茶会が楽しめる予定。
http://www.910ryu.com/column/000133.html

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「五月決算☆茶会」予約ご希望のかたは 件名を【910】5月19日 として、メールをinfo☆910ryu.com へ
(☆を@に変えてください)

「ワビサビジネススクール」次回は、2013年6月9日(ロックの日!)
トークテーマは~サラリーマンでもわかる陶磁器の歴史。
「トップダウン型の中国と現場主義の日本・・・役人が勝つか、職人が勝つか、それが問題だ」 

予約ご希望のかたは下記へ
http://www.uplink.co.jp/event/2013/10062 

古美術「祥雲」
http://www.shouun.co.jp/
 
瓦せんべい「くつわ堂」
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http://www.kutsuwado.co.jp/
 

「給湯流」公式サイト
http://www.910ryu.com
http://www.twitter.com/910ryu
http://www.facebook.com/910ryu.tea.ceremony