杉並区の桜の名所・善福寺川緑地公園に、今年もお花見のシーズンがやってきました。
(というか、もうシーズンが終わりそうですが)
DSC_0429
全長約4.2kmあるという善福寺川沿いは桜並木になっていて、
この時期、満開の桜がびっしりと咲く様子は、それはもう美しく刹那的で幻想的なのです。


でも、今年の公園は、ちょっと様子が違っている。
DSC_1064
現在、公園は工事中なのだった。
※ちなみに工事しているのは公園内の一部(「なかよし広場」のあたり一帯)です。
 それ以外のところではお花見とかは普通にできます。

公園のなかよし広場はフェンスでぐるりと覆われて、中に入ることは許されない。
DSC_0946
ふだん子供たちが野球をしたり、滑り台で遊んだりしてにぎわっている広場は
がらんとして、しいんと静まりかえっている。
このフェンスはなんだか国境みたいだと、ぼんやりと思った。

昔、旅をしたときに、イスラエルのパレスチナ地区に行ったことがある。
イスラエルとパレスチナの居住区の間に立ちはだかる壁の風景が
ふと頭にぼんやり浮かんだ。


ここの公園には樹がたくさんあって、行くと季節の移り変わりを肌で感じることができる。
公園では、ジャングルジムに登ったり、いつもいる野良猫が元気かたしかめたり、
ベンチに座って上を見ながらぼーっとしたりする。
なんとなく私にとって、一週間の区切りというか、リセットをする場所になっている。


それは、今からさかのぼって12月頃のこと。
週末、いつものように公園に行った。
DSC_0950
なんだか、いつもと様子が違っている。
公園内のほとんどの木に、ラミネートされた紙がくくり付けられていた。
ひとつずつ見てみると樹の種類や樹齢などによって、
「移植」「伐採」「剪定」と記入された3種類の紙が貼り分けられている。

DSC_0949
なんでも、増水時のための地下貯水池を作る工事が行われるらしく、
そのために、樹を移植したり切ったりする、ということのようだ。

ここには大きくてりっぱな樹がたくさんあるので、
何十年もかかってここまで成長した樹を切ってしまうのは、
すごくもったいないけど仕方ないのかな・・・と思っていた。


そして、今年の1月1日にも、近所の神社に初詣に行きがてら、公園に立ち寄った。
DSC_0954
ベンチに座ってぼーっとしていると、向こうからおばあさんが
前かがみになり腰をまるめて、手押し車を押しながら、ゆっくり、ゆーっくり、こちらに歩いてくる。
私が座っているベンチのところまで来て、おばあさんはよっこらしょと私の隣に座った。

「ここの樹を全部切っちゃうなんて、まったくひどいことをするもんだ。
貯水池は、昔環七のほうに大きいのを作ったんだから、ここに新しく作る必要なんてない。
石原慎太郎が都知事を辞める前に、選挙資金を作るために、この工事を決めたのよ。
あの家からは3人も選挙に出るっていうんで、お金がたくさんかかるから。
水戸黄門とか遠山の金さんに出てくる悪代官っていうのは、今もいるんだね。
昔からなーんにも変わっちゃいない。」
と、おばあさんは、ひとり言のようにひといきに話した。

わたしが「悲しいですね」と言うと、おばあさんは「悲しいわよぉー」と言った。

さらに、「あたしはこの歳まで生きてきて、こんなひどいものを見せ付けられて、
石原都知事がどこに住んでるか知らないけど、家の壁に犬のフンでも投げつけてやりたい。
あの人のところに行って、目の前で首吊りでもしてやりたい気分。」
と言った。
きっと、工事のことがくやしくて、おばあさんにとってはあまりにも不条理なできごとで、
誰かに話さずにはいられないのだろう。

ひとしきり10分くらい話したところで、おばあさんは、よっこらしょと立ち上がって、
またゆっくりゆっくり、歩いて去っていった。
気がづくと、体が芯から冷え切っていた。


それからまたしばらくして、1月の週末に大雪が降った。

私は公園が真っ白になっている風景をどうしても見てみたくて、
雪が降りしきる中、公園に行ってみた。

東京の雪は、ひと粒ずつが大きくて湿っていて重たい。
長靴でズボズボ雪にぬかって滑りながら、やっとのことで公園にたどりついた。
DSC_0924

公園には誰もいなかった。
数人の子供たちが、キャーキャー叫びながら雪だるまを作ったりブランコに乗っている。
いつもいるホームレスのおじさん数人は、公園の中の屋根のある場所に避難している。
雪の重さで木の枝がたくさん折れていた。
DSC_0926

足跡がまばらにあるだけで、あたりは真っ白だった。
野良猫はどこにいるんだろう。
DSC_0925



そして先週公園に行くと、川沿いにあった桜の樹(フェンスの内側の部分)が、
すっかりきれいに伐採されて無くなっていた。
DSC_1059

あのおばあさんは、今でも毎日散歩に来ているのかな。
満開になった桜の樹を見て、何を思っているだろうか。

DSC_1056

いつもいる野良猫は、どこかのおじさんが置いていったかと思われるジャンパーの上で
ぬくぬくと暖かそうにまるくなって寝ていた。