イケミさん(仮名)は、新規にメールアドレスを設定しようと携帯電話を操作していました。間もなく始まるであろう新しい世界に胸を躍らせ、高鳴る鼓動から指先がわずかに震えていることに自分でも驚きを隠せません。
迷うことなく、@マーク前のアドレスをikemiにして登録を試みました。
しかし、すぐに、こんなエラーが返ってきました。
そのアドレスはすでに登録されています。
ほかのアドレスで登録してください。
仕方ありません。今度はikemiiという名前で登録を試みました。ものごとうまくいかない場合は、少しアレンジをしてみて、もう一度ぶつかっていけばよいのです。
やってみなはれ、再登録、送信。
そのアドレスはすでに登録されています。
ほかのアドレスで登録してください。
今日の占いのせいかもしれません。確かに12星座のうち8位という今日の運勢は、ハッピーかサッドで言うならば、サッドです。次はikemiiiで再登録をしました。
そのアドレスはすでに登録されています。
ほかのアドレスで登録してください。
「なるほど。」
納得がいかない時ほど、よく口にする言葉です。さらに携帯電話から、間髪入れず、驚きの提案が続きました。
ikemi123やikemi-0426などという名前はいかがですか。
アイデンティティ。この携帯電話の辞書にはアイデンティティという言葉が未登録に違いありません。即ユーザー辞書登録、定義にはこう記述して携帯電話に教えてやりましょう。
アイデンティティ。
自分らしさを見つけ、誇りを持ち、大切に守り育てていくもの。
ikemiiiがだめならば、ikemiiiiでいかなくてどうする。
なにゆえに123や-0426などという提案をしてくるのだろうか。
アイデンティティの大通りから路地裏の小さな曲がり角に入るような提案を。
私はikemiです。
ドント・ルーズ・マイ・アイデンティティ。
キープ・ファイティング・サクラジマ。
ikemi→登録済
ikemii→登録済
ikemiii→登録済
iを足しても足しても、携帯電話はウンと言ってくれません。
星に願いを、ikemiiiiで登録を。エンター。再再再登録。
メール登録が完了しました。
ikemiiii@******.comです。
待ちわびていたこの瞬間がついに訪れました。
ついに、オリジナルのメールアドレス取得です。
苦労して勝ち取ったメールアドレスを改めて眺めていると、iという記号が、まるで一人格のように愛おしく思えてなりません。
私はikemiiii、次に列に並ぶイケミーはikemiiiii。
メールアドレスの文字列の世界だけで連なり、繋がる、イケミーの行列。
名前がiで終わる人たちのメールアドレスは、iがどんどんと連なり続いていくでしょう。
おっと、このコラムのタイトルで、"i"を"愛"と打ち損じていたようです。
"i"で終わる人たちの"i"は続く。
"愛"で終わる人たちの"愛"は続く。
でも、打ち損じを直す必要はなさそうです。
それはそれで、iが愛でも、愛がiでも、同じこと。