台東区の、入谷-
上野から日比谷線でたった一駅、しかし巨大な繁華街の面影はすでに無く、
背後に寺院の群を抱えるだけの静かな住宅街だ。
これといったものも無い入谷だが、この地には都内最古と思われる古銭湯が、
今もなお湯を沸かし続けている。
入谷駅からわずかに徒歩数拾秒、昭和通りの西側の住宅地に佇む快哉湯(かいざいゆ)。
昭和2年の創業と伝わり、築80年以上。戦禍を逃れ、銭湯受難の時代を生き延びる奇跡。
ひんやりした空気漂う空間、全てが昭和の香りをそのまま残し、
無駄なものなどただのひとつも見当たらない。
洋風の意匠が不思議な日本堤・廿世紀浴場、イベントも催されるなど賑やかな目白台・月の湯-
それらの知名度には及ばぬものの、もはや奇跡と呼ぶべきこの古態。
心底惚れ込んだ私は、銭湯に興味を持った知人を今まで何人もこの古銭湯へ案内してきた。
広い浴室を見渡すように、凛と建つ木組みの重厚な番台。
今どきは番台を撤去してフロント形式に作り変える銭湯も多い中、惚れ惚れするような上質の建材だ。
しかしよく見ると、下部の拾数センチが若干色が異なるのに気がついた。
戦後、栄養状態が良くなるにつれぐいと伸びた日本人の平均身長。
従来のままでは、番台越しに男性側から女性客の脱衣所が見渡せるようになってしまったため、
高さを確保すべく、昭和30年代に継ぎ足したものと伝わる。
○ 快哉湯
住所 東京都台東区下谷2-17-11