ここは江戸川区、北小岩の鶴の湯。二重の千鳥破風を備えた、東京伝統型の一軒だ。
外観に違わず昭和の古態をそのまま残す店内、しかしすぐ横に併設されたのは広々とした露天風呂。
都内では矮小な敷地や周辺の高層建築といった事情もあり名ばかりの”露天”も多い中、
広々と真っ青な空が拝める鶴の湯露天は、さながら温泉郷。
老若男女多くの客で賑わう、昨今にしては珍しく活気の有る一軒だ。

 
しかし私が驚かされたのは、浴室の男女境越しにかすかに見えた壁画だ。
故・早川絵師による背景画、それはウサギ、イルカ、マンボウ- 
大胆にキャラクター化された、かわいらしい動物たちの姿。
古風な風景画とはあまりに不釣合いな画風だが、しかしこれには訳があった。
昭和期、幼い子どもは父親よりも母親に連れられて銭湯へやってきたもの。
風呂嫌いも少なくない彼ら、なんとか楽しく入浴してもらうためにと、
絵師が趣向を凝らした結果がこの動物たちというわけだ。
遊び心を忘れない、早川氏らしい作風といえよう。
 
女湯限定、しかも経年劣化のため次々と描きかえられている、早川絵師の動物たち
幸運にも彼らに出会うことが出来たなら、ぜひその姿を目に焼き付けて欲しい。
氏の逝去後、はや2年半。銭湯の減少、そして描き変えにより、
あと数年内には間違いなく失われる昭和の香りなのだから。

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○ 鶴の湯
東京都江戸川区北小岩7丁目4−16