その日私は蒲田での用事を終え、駅へと向かい歩いていた。
住宅街の中を折り曲がりすり抜ける小道、このような場所ではGPS付きの携帯が何よりも頼りになる。
しかしふと目に入った「宝湯」の文字、はて、この近辺に風呂屋などあったろうか。
通りの角を曲がると、その正体はすぐに明らかになった。
富士のペンキ絵を備えた立派な東京伝統の宮造り銭湯、ただしその姿は半ば瓦礫の山と化して-
どうやら、何年も前に廃業したらしい。
そのため、4年ほど前に発行された手元の地図には記載がないのだろう。
ガラガラと大きな音を立て、重機が敷地の瓦礫を掘り起こしている。
作業員にも制止され、近づくことはならなかった。
記録として数枚を写真に収め、私は宝湯をそっと後にした。
○ 宝湯
住所 大田区中央
※ 廃業、時期は不明