蒲田の末広湯-
ああ、思い出した。蒲田といっても京急線寄り、JR駅前の繁華街とは異なり、
静かな南蒲田の住宅街に位置する古銭湯だ。
入り口には唐破風を備えた、一際古風な面構え。
一見古態を残しつつも内部は驚くほど改装の手が入った銭湯も多い中、
重厚な番台、格天井など多くを創業時のまま残し、大田区内でも
最も昭和風情を残す銭湯のひとつであった。
蒲田と言えば、黒湯の町として知られる。
南部一帯で豊富に湧き出す鉱泉、それは古代に堆積した植物由来の有機物を起源とする、
何万年もの年月が生み出した奇跡。
ここらでは多くの銭湯が直堀りで組み上げられた黒湯を用いており、
地元民はわずか450円で、毎日のように天然温泉を楽しむ。
軒数も多いが故に競争効果を生み、設備も充実。
サウナは多くが無料、数千万円の炭酸ガス発生装置を導入する銭湯も出現するなど、
風呂好きにはまさに天国ともいえるのがここ蒲田であった。
だが末広湯といえば白湯のみ、目立つ設備などただのひとつもない。
貴重な古態というのは、裏を返せば老朽化の進行を意味する。
末広湯でも、老朽化は確実に見えないところを蝕んでいたようだ。
改装となれば、数千万から億以上。余力は、なかったのだろう。
2010年末、惜しまれながら末広湯はその歴史に幕を下ろした。
○ 末広湯
住所 東京都大田区南蒲田2-10-13
※ 2010年12月26日をもって廃業