須賀乃湯といえば、よく覚えている。有楽町線沿いの住宅街、開発が進みながらも
練馬らしい農地の入り混じる平和台に建つ、一軒の古銭湯だ。
立派な寺社型の風呂屋といえば、歴史の深い下町に多いもの。
宮造り銭湯発祥の地である墨田区、郊外へ抜けるにつれてそれらを目にする機会は少なくなるが、
二重の千鳥破風、古式の木製番台、昔懐かしいペンキ絵ー
これでもかと盛り込まれた、東京銭湯特有の必要条件。
都心へのベッドタウンとして比較的新しく開発された練馬、
現存する中で最も目を引く古態は希少価値も高く、一際深く私の記憶に刻まれていた。
築、およそ半世紀。経年劣化は進んでいたろうが、客の大工棟梁の助言により
予め屋根瓦を補強しておいたため、かの大震災にも被害という被害がなかったのが主人の誇りだ。
太く大きい、良質な建材が豊富に手に入った頃の創業という時代背景もあるのだろう。
しかし跡継ぎもなく、2011年の7月、須賀乃湯は惜しまれつつその歴史に幕を閉じた。
どうやら、土地の利権の問題も絡んでいたらしい。
季節もひとつ巡り、おそらくは既に取り壊されていることだろう。
須賀乃湯なきいま、私は今再び平和台の地を訪れる気にはなれない。
○ 須賀乃湯
住所 練馬区平和台2-10-3
※ 2011年7月18日をもって廃業