今なおノスタルジックな街並みが残り、昭和の色濃い谷中。
昨今では暖かい下町情緒が人気を集め、週末ともなれば大勢の散策客で賑わう。
しかし世界湯があったのは、彼らが寄り道することもないであろう裏の裏。
外観こそ小ぶりで質素ながらも、下町らしく豪快に熱いお湯。
奥に描かれた故・早川氏の富士、氏の末期の作品となるそれはまさに見事の一言。
この青々とした力強い画風が大好きで、私は幾度となく世界湯を訪ねたものだ。
 
土地柄芸人のお客も多く、昔は5代目・古今亭 志ん生をはじめとする落語家たちも訪れた。
男湯の左奥が、志ん生の「指定席」。
21世の浴室も目を閉じると、癒しのひとっ風呂に気をよくした高吟の声が聞こえてくるようだ。
いつも地元の常連客で溢れ、笑いの絶えなかった世界湯。
その店を閉じることは、世界湯にとって断腸の思いであったことだろう。
 
yanaka_sekaiyu_03
yanaka_sekaiyu_02
yanaka_sekaiyu_04
yanaka_sekaiyu_01

 
○ 世界湯
住所 台東区谷中3-13-4
※ 2010年2月10日廃業