小松島へ向かうバスの中、旅の疲れからか私はうとうとしかけていた。
だがふと気がつくと、あたりを包み込む一面の霧。
まるで雲の中にいるかのような濃霧、30m先を見通すことすら難しい。
これはまた珍しい光景- いやまてよ、ここは徳島の港町。
きっと、海からの湿気を含んだ風によるものだろう。
いかにも沿岸のご当地らしい風景、そう考えると悪天候にも思わず気分が高まる。
そのうちに見えてきた、道路沿いののっぽな煙突。
暖簾が掛けられているのを車窓から確認し、私は横のボタンを押した。
 
戸を開けると、首から上だけ日焼けした男たち。
坊主頭にたくましい体躯、ガハハのさばさばした語り口、
東京ではまず見かけない、港町の銭湯ならではの光景だ。
今日の成果は、鰯だろうか。同じ湯けむりの中とはいえ東京とは全てが異なる会話、
そ知らぬふりをしながらも、思わず聞き耳を立ててしまう。
創業、50年の宝温泉。お世辞にも広いとは言えない質素な建屋だが、
湧出する良質な地下水は「外面だけのお湯屋より、よっぽどいいよ」。
癒しのひとっ風呂を求めて、宝温泉には今日も海の男たちが集う。

 
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○ 宝温泉
住所 徳島県小松島市横須町8−36