和歌山から紀勢本線に揺られ、降り立った湯浅。

古来より、熊野街道の宿場として栄えた紀伊半島の港町だ。

今なお残る古い町並み、見渡せばあちこちに実る「有田」の橙色。

ゆっくりと時間が流れる湯浅の地に、とある古銭湯の噂を聞いて訪れた。

 
創業は大正とも明治とも言われる布袋湯、銭湯が軒並み姿を消した有田一帯で唯だひとつ残った老舗。

こじんまりとした瓦屋根、その前には煉瓦の門を構えるなんとも不思議な一軒だ。

主人が言う、「昔は、電車も電気もなかったよ」。

洗い場へお湯を送るにも、人力でふいごを踏むようにして上部の貯水槽へお湯を送り、
蛇口を使えるようにしたのだという。
 
昭和期には、近くに花街を抱えた。主人は当時を偲ぶ、「それはもう華やかだったよ」。

昼過ぎから深夜まで芸者衆が絶えることなく、この布袋湯を艶やかに彩った。

だが今となっては入浴客は減少し営業時間も短縮され、更新もままならぬ設備。

一見の旅人に当時の栄華は、想像することすら難しい。

それでも、隅の木製ロッカーにはかすかに往時の面影が残されていた。
 "もも"、"つばき"、"かんな"、"だりや"-
実在した湯浅の芸妓たちの名を、刻んだものと伝わる。

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○ 布袋湯
住所 和歌山県有田郡湯浅町湯浅1031-4