数年前に行った京都でのこと。
鴨川に架かる橋をタクシーで通りながら、
川縁を歩く鷺を見ていたのです。
すると運転手さん、
「鷺は寂しい鳥です。いっつも一羽でいますわ」と。

運転手さんの言い方は、どこか突き放したような、
「けったいな」とでも言いたいような口ぶりだったけれど、
私は「いいなぁ」と思いました。

群れたりしない孤高の美学を感じさせる姿は、
権力におもねらない姿にも思えます。

などという私の幻想をぶっ壊すようなお話があります。


昔。
帝が神泉苑に行幸された時のことでございます。
ふと目を遣ると。
池の端に人影が見えるので御座います。
これは怪しきことぞと、帝は目を凝らされました。
善く善く見れば、それは人ではありませんでした。
大きな、大きな、青鷺だったので御座います。
そこで帝は、六位の官位の者を呼び、捕らえるように令(いいつけ)たので御座います。
勅令を受けました六位の者は、早速鷺を捕らえに参りましたが、中中捕まるものでは御座い
ません。
そっと近づこうとも、威嚇しようとも、鷺はつうと逃げてしまうので御座います。
〜中略〜
そこで六位の者は鷺にこう申しました。
宣旨なるぞ、と。
帝のご命令であるから動くなと、こう申したので御座います。
鷺は。
ぴたりと止まったので御座います。(以下略)

京極夏彦『後巷説百物語』「五位の光」

この後鷺は、大人しく捕らえられて、帝のお褒めにあずかるのです。
六位の者の言いなりにはならぬが、帝の詔を聞き入れた。
「あっぱれだ」と。
鷺には五位の官位が与えられたのでした。
だから、ゴイサギなんですって。
このお話が元になって、能の「鷺」という演目も創られたのだそうです。

今日の舞台は、ここにしましょう。

竹橋の国立近代美術館

々企画展を観に行きますが、常設展示がいいのです。
今日の主役、「星五位」(上村松篁)という作品がありますよ。



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著者:京極 夏彦
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お能の話題が出たので私のアホみたいな写真コレクションから2枚。
いったい誰が買うんでしょうか?
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