いい話しを聞きました。都内にある某ホテルのコンシェルジュが、パリからの宿泊客に依頼されました。歌川広重喜田川歌麿葛飾北斎の版画をぜひ手に入れたいと。

そこでコンシェルジュは考えました。複写や印刷のプリントなら簡単に手に入るが、それでは味気ないし…。調べ尽くして探し当てたのが、銀座8丁目並木通りにある渡辺木版画店(渡邊木版美術画舗)なのです。

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フランスの老夫婦はこの店で浮世絵などの版画を数点購入、たいそう感激されたとか。一端は帰国したのですが、再度お礼にコンシェルジュの元へ挨拶に来たと言います。

ここ渡辺木版画店は、明治39年の創業。浮世絵のオリジナル版画の販売だけでなく、復刻版画を永く手がけてきた老舗でもあります。ほ~ら、店頭には、Wood cut Printと外人にも分かるように表示されていますね。

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さてここで少し版画についてのお勉強をば。版画には、上記の木版画の他、シルクスクリーンリトグラフ(石版画)・銅版画(エッチングなど)があります。

そして木版画の種類として、渡辺木版画店が扱っている浮世絵などの「オリジナル版画」があります。現存している、江戸時代の一点物なら軽く100万円以上はするというもの。

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そしてもう一つ渡辺木版画が扱うのが「復刻版画」と呼ばれるもの。大昔に擦られた版画を、原版を再度作り直して擦られた版画のことを言います。件のフランス人夫婦が買い求めた版画はこれだったのです。例えば広重の名所江戸百景

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歌川広重の「両国花火」
今でも隅田川の花火大会は多くの人に楽しまれていますが、遊びの少ない江戸時代では、いま以上に光の祭典を心待ちにしていたと察せられる一枚。ひゅ〜うドン!という心地よい音が今にも聞こえてきそうです。

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広重や北斎のオリジナル版画は目が飛び出るほどの高額ですが、復刻版画なら数万円で手に入ります。使う画材(紙や絵具)は異なりますが、物によってはオリジナルと遜色ないため大変お得な買い物と言えます。

初版ではなく、残っていたオリジナルの版木を使って後に摺られた版画は「後摺り」と言われます。まぁ広重の版木は無いも等しいのですが(笑。永らく蔵や倉庫で眠っていた版木が、熟練の摺師の技によって見事に甦るのです。これもなかなか魅力的です。

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また復刻版画は、複製版画とか、再版という言い方も。オリジナル版画といえども、浮世絵師が書いた原画を、彫り師摺り師という職人の手にゆだねるという江戸時代の手法は、ある意味広い解釈で、浮世絵師が描いた肉質の版下絵の複製品という見方もできましょう。複製の複製が、復刻版画ですかね(笑。

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ところで渡辺木版画店ではいったいどこで版木を掘ったり擦ったりしているのでしょうか? それは店のビルの7階にある摺刷作業場、3人の摺師さんが作業しているのだとか。売り場ならぬ、制作する処も銀座なのです。特に7丁目や8丁目はクラブやバーの密集地。そんな一角で今日も黙々と版画は作られています。ほら、銀座ってところは奥が深いでしょ。

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【 渡邊木版美術画舗 】
◎中央区銀座8-6-19
◎電話=03-3571-4684
◎営業時間=月~土09:30~20:00、祝09:30~17:00
◎定休日=日曜