静岡県静岡市-
ここは私が進学のために栃木県を出て以来、4年間の大学生活を送った町だ。
駅前こそ、駅ビルを中心とした一般的な地方都市風情。
だが1歩街を離れれば広がる茶畑、あちこちに実る柑橘類、間近に広がる駿河湾。
社会の教科書通りの風景に妙に感動し、見るもの聞くもの栃木にはないものばかりで、
初めて地元を出る18の身にはなにもかもが新鮮に映ったのを覚えている。

駅前繁華街を抜け、駿府城をさらに北へ進むと突如現る赤鳥居-
奥にあるのは浅間神社、その門前町を抜けていったところに天神湯がある。
東京ではほぼ見かけなくなった古い洋風の看板建築、創業以来90年と伝わる。
番台の上に掲げられた許可証には、目を凝らせば確かに「大正9年」の文字。
市内には2軒を残すのみとなった静岡銭湯だが、これだけの古態が
そのまま残されていることに感涙を禁じえない。

ちなみに浴槽はというと、最奥部に設置された大小の2槽式。
これは東日本の銭湯の特徴、ふだんまったく気に掛けないことだが、
東西の銭湯文化の違いで非常に大きいのが浴槽の位置である。
同じ静岡県でも、西に1時間の浜松あたりはほとんどが関西式の中央配置。
さすれば東海道沿いではこのあたりが、銭湯文化の東西境界線となるだろう。
東西の銭湯文化を考察する上で、天神湯は大変に貴重な1軒と言えよう。

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○ 天神湯
 静岡市葵区浅間町1-29