銭湯お遍路、八拾八ヶ所の旅からはや一年。
行く末を見定め、末永い繁栄と未来を願っての満願成就であったが、
この一年の間にも東京銭湯には様々な変化が起きていたようだ。
じわり広がるレトロブーム、伝統のペンキ絵がにわかに注目を集め、メディアへの露出も増加。
昨今では若い女性を対象にした催しなども人気を博していると聞く。
集中して入浴することによる温室効果ガス排出の削減効果、地域住民の触れ合いなど
従来の生活様式を見直す向きも一部にはあるようだが、
取り巻くのはどうしたって吹き止まぬ逆風の嵐。
進行する老朽化、歯止めが利かない入浴客の減少、再高騰する原油価格。
業界の見通しは依然、暗いと言わざるを得ない。
 
私が巡り始めた2006年当時、都内の銭湯は1000軒を超えていた。
だが毎年、定められたかのように失われる50軒。
2010年もその勢いは一向に収まる気配がなく、この年の瀬にも先日、
ついに800軒を割ったとの知らせが届いた。
このままいけば、あくまで計算上ではあるが- 東京の銭湯は、あと16年で姿を消す。
 
銭湯は、このまま失われてしまうのか。
もう銭湯は、日本人に必要とされなくなってしまったのか。
近い将来、思い出のアルバム写真を眺める子供たちにのっぽな煙突の正体を尋ねられたとき、
「昔、このあたりには銭湯というものがあってねえ」と、遠い空を眺める時代が来るのだろうか。
私は再び、旅に出る。東京銭湯の行く末をしかと見定め、その記憶を焼き付けるために。
 
しかし江戸に遡ること400年、東京銭湯ならではの希有な歴史。
その豪勢な建築様式は、全国に視野を広げれば特異とも言える存在だ。
独特な東京銭湯を学び理解を深めるにはいま一度、他の地域と比較してみる必要があるだろう。
そのためここ一年、私は東京以外の地域へ努めて足を運ぶことにした。
以下に送るは私が訪ねた、日本各地の銭湯の記録である。

20101231_ebisuyu_1