新しい職場のある場所は、昔からの人たちが住んでいて、マンションもたくさん建っていて、でもなにもなくて、私もまだ何者でもない気がして、不安がいっぱいの私は、とにかく落ち着いてコーヒーが飲める場所を探し求めた。

通勤してくるとき、地下鉄の駅を上がったすぐのところに小さなパン屋さんがあって、そこにコーヒーの看板が出ていたのを見つけたので、休憩時間に行ってみることにした。
朝でほとんど売れてしまったのか、パンはあまり残っていなかった。ホットコーヒーとねじりドーナツを買う。ねじりドーナツをみると、村上春樹の「羊男のクリスマス」という絵本を思い出す。羊祭日に穴のあいたもの(ドーナツ)を食べた呪いのためクリスマスソングが作曲できなくなった羊男が、呪いを解くため、穴のあいていないねじりドーナツを手に秘密の穴の底に下りていく―という話。
ドーナツの砂糖の甘さとコーヒーのあたたかさが体の中にじんとしみわたる。

お店を出て空を見上げると、晴れ渡った快晴の空に飛行船がひとつ飛んでいた。思わず空を見上げてしまうのも、新しい生活ならではのことかもしれない。
11月の空気は透き通っている。寒くなってきたけれど、まだ少し温もりが感じられる。その少しの温もりを逃すまいと焦る。

11月は苦手な冬の季節のはじまりであまり好きじゃなかったけれど、なんだか好きになりそうだ。

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Simon
中央区勝どき2-10-14
03-3533-7377
6:00~パンが無くなり次第閉店
日祝休