銀座のど真ん中、プランタンの裏あたりの路地に、「ニューキャッスル」という古くからの喫茶店がある。

新しいファッションビルが次々にオープンするこの界隈で、奇跡のように残っている。ドアの前にはいつもキジ猫が座っていて、道行く人間たちをじっと眺めている。そして近所のおばちゃんがやってきて頭を撫でたりしている。
路地とはいえここは銀座、隣接するのは近代的なファッションビルだし、人の往来もかなりあるから、この店の前だけ、なんだか不思議な雰囲気が漂っている。

今日はこの店に入ってみることにした。テーブルが数席とカウンターの小さなお店だ。マスターが名物「辛来飯」(カレーライス)の説明をしてくれる。おもしろいのが、駅の名前がついた4種類の量が選べること。普通盛は「大井」("多い"だけど普通盛)、小盛が「品川」(大井の手前)、大盛が「大森」、それより多いのが「蒲田」(大森の先)。うぅ~ん?ちょっと混乱したが、「品川」にした。
玉子焼きをのせるかと聞かれたので、のせなくて良いと答えたのだが、食べてみたら辛来飯、けっこう辛い。食べれば食べるほど、辛さが口の中に広がっちゃうのである。マスターにお願いしてやっぱり玉子焼きをのせてもらう。辛来飯の辛さと玉子焼きの甘さが完璧なバランスだった。辛来飯に玉子焼きは欠かせないようだ。

しばらく客は私だけだったが、若い外国人カップルが入ってきた。観光客だろうか、こういうお客は珍しくないようでマスターは英語で対応する。彼らも「品川」に玉子焼きをトッピングして食べた。

外国人カップルが店を出ていって、私はまたひとりになり、食後のコーヒーをゆっくり飲む。
マスターがドアの前に座っている猫に話しかける。「ポンちゃん、お客さまの邪魔になっちゃいけないよ。」ポンちゃんと呼ばれた看板猫は10年ほど前からお店にいるそうで、ポンちゃんのお家はお店の中ではなく、お店の「前」。銀座の雑踏なんだそうだ。

帰るとき、ドアを開けるとポンちゃんと目が合った。ポンちゃんは小さな声でにゃあと言った。
「邪魔だったら踏んじゃっていいんだよ。」マスターがお店の奥からそう冗談を言って笑った。    

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ニューキャッスル
中央区銀座2-3-1
03-3561-2929
11:00~21:00
土~17:00
日祝休