東京都写真美術館へ、古屋誠一「メモワール.」という写真展を観に行った。

作家の嶽本野ばら(彼は、私が喫茶店に興味を持つきっかけとなった「カフェー小品集」という短編を書いた人だ)が、何かの雑誌で古屋誠一の、病を患う妻を撮った一枚のポートレイトについて書いていたのが印象に残っていた。
今回の展示も、妻クリスティーネを撮った写真がメインだった。写真家の腕がなせる技か、女優を志していたクリスティーネの魅力か、彼女の表情は一枚一枚見事に違っていた。生き生きした表情、おどけた表情、母性にあふれた眼差し、死を思わせる絶望的な表情。また、たった7年間の写真なのに、少女のように見えるものから、とびきりの美人、老女に見えるものまで、年齢まで違うように見えた。
なかには「作りもの」のように完璧な写真もあった。しかし被写体は予定調和の女優ではないし、白い花や黒い衣装は用意されたものではなく、ふたりのまぎれもない事実だ。彼らがその瞬間、そこに在ったという事実。それが手で触れられそうなくらい、近くに感じられた。 押しつけるのではなく、ただ在ること撮るだけでこんなに強いメッセージが込められている写真を久しぶりに見た。

展示に大満足した後は、併設のカフェ、「シャンブルクレール」で一休みすることに。
美術館のカフェが好きだ。鑑賞後のカフェタイムのために美術館や博物館を訪れていると言っても過言ではないかもしれない。 小さいが、天井が高く、光が差し込み開放感のある店内。シャンブル・クレール(chambre claire)とは「明るい部屋」という意味らしい。
カフェではあるが、名物はベルギービール。なるほどカウンターがあり、お酒類も充実している。

隣には、貫禄のある風貌の外国人キュレーターと通訳が座っていた。時折若い日本人がやってきて名刺を交換し合った。美術館のカフェらしすぎる光景である。
彼らが出ていくと、今度はロッカーのような身なりのカメラマンらしき男性とそのアシスタントが座った。アシスタントがカメラマンらしき男性の写真を撮っていた。そしてふたりはひっきりなしに煙草を吸った。

私はミュージアム・ショップで買った古屋誠一の写真集を眺めながら、コーヒーを飲んだ。   

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シャンブルクレール
目黒区三田1-13-3 (恵比寿ガーデンプレイス 東京都写真美術館) 03-5798-2218
1F 10:00~20:00
2F、日~18:00
月休
http://www.brussels.co.jp