「ねこのまちにおきざりにされないように」
「気をつける」と天吾は言った。
  ―1Q84 BOOK3(村上春樹)

ねこのまちを訪れる旅に出た。千葉県の千倉。小さな海の町だ。

普通電車に揺られること4時間、ようやく千倉にたどり着いた。駅を出て、海岸に出る。誰もいなかった。潮が引いている時間なのか、沖に向かって浅瀬がつづいていた。
海が見たいと思って長い時間電車に乗ってきたけれど、しばらく眺めると満足してしまう。実際に海を見ているときより、海のないところで海を想うときのほうが、海を恋しく想ってしまうみたいだ。

海沿いの道にある「Sand Cafe」に行った。室内には飴色のテーブルセットや古い額、貝殻のオブジェなどが置かれていた。ジャズが静かに流れていた。へミングウェイの「老人と海」をイメージしているらしい。あらゆるものから、海の匂いがしてきそうだった。

私の座った席の壁には楽譜が飾られていた。曲名は「SAND CAFE」。このお店のために誰かが作ったもののようだ。
お昼時だったので数組の客がいた。年配の女性客が多かった。介護施設が近くにあり、そこの職員か利用者の家族なのだろう、介護の話題が聞こえてくる。

優しく物静かな感じのマスターは、カウンターで常連客とコーヒーの淹れかたの話をしていた。帰るとき、マスターは私に千倉の海の写真のポストカードをくれた。

お店を出ると、カフェの隣に小さな雑貨店がついていたので入ってみた。入った瞬間、懐かしさを感じた。その正体は、売り物の石けんやアクセサリーと一緒に置かれた、たくさんの小さなガラス瓶だった。マスターたちが海で拾った漂流物だとメモが置いてあった。
何処から来たのだろう。その物語に想いをはせてみる。また、海が恋しくなってくる。    

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Sand Cafe 千葉県南房総市千倉町瀬戸2908-1 0470-44-5255 9:00~17:00 火、第2・4月曜休 http://www.sandcafe.jp