代々木駅近くの「TOM」という喫茶店に行く。

ドアを開けると、カラカランと音がなって、眼鏡をかけた白髪の、物腰のやわらかいマスターが迎え入れてくれた。マスターの佇まい、建具や家具のやさしい飴色、適度な音量で流れるジャズ。まさに「喫茶店」、という雰囲気である。

席の間はつい立のような建具で仕切られていて、書き物をするのによさそうだ。隣のテーブルのお客は、教職に就いているらしい女性のグループ。センセイたちの、ここにはちょっと書けないような裏話が繰り広げられていた。シンプルな装飾が施された飴色のつい立の合間から、彼女たちの後姿を垣間見る。

豆も販売している自家焙煎のお店で、ブレンドは「ストロング」と「ソフト」があった。ソフトのほうを頼んでみる。確かに軽快だけれど、香ばしくてとてもおいしい。

ふと伝票を見ると、詞が書いてあった。   

コーヒーの何と美味しいことよ!
千のキスより尚甘く、
ムスカート酒より尚柔らかい。
コーヒーはやめられない。
私に何か下さるというなら、
どうかコーヒーを贈って下さいな。
   ―コーヒーカンタータ(J・Sバッハ)

コーヒーカンタータ・・・。バッハがコーヒー好きなのは聞いたことがあったけれど、こんな曲を作っていたのは知らなかった。

センセイたちの会話に耳をダンボにしながら、はるか300年以上前の喫茶風景に想いをはせてみる。   

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TOM
渋谷区代々木1-37-3
03-3379-2309
9:00~22:00
土12:00~19:30
日休