東京駅の地下にある「八重洲地下街」は、迷路みたいな街である。

通りが縦にも横にも何本かあるし、斜めに通りが延びていたり、行き止まりになっているところもある。朝の出勤、昼休み、帰宅時と、平日は3度も通る場所なのにも関わらず、いまいち全貌がつかめていなかった。

全貌を明らかにすべく、仕事の後、全ての通りを歩いてみることにした。すると今まで通ったことのない通りがひとつだけあった。その通りには良い雰囲気の喫茶店があった。お店の名前は「アロマコーヒー」。 八重洲地下街には喫茶店がいくつかあるが、ここが一番レトロな雰囲気。

階段を数段下がったところがフロアになっている。窓から地下街を歩く人の足元が見える。なんだか不思議な気分になる。お客はサラリーマンが何組か。BGMは一昔前の洋楽のヒット曲。店内にけっこう音はあるのだけれど、地下の地下になっているせいか、静かな印象だ。

ブレンドコーヒーを注文し、鞄から宮部みゆきの「地下街の雨」という文庫本を取り出して読む。読みはじめてすぐ、こんな文章がでてきた。

  一年半ほど前のことになる。
  当時の麻子は、八重洲地下街のなかにある小さなコーヒーショップで、
  ウエイトレスをしていた。

「八重洲地下街」の「コーヒーショップ」!すごい、偶然だ。   

  地下街のなかだから、窓際にいたところで、
  きれいな景色を眺めることができるわけではない。
  向かいのティーンズ・ブティックと、ハンドバッグ屋の店先と、
  あとは行き交う人の顔、顔、顔。

主人公の「麻子」が働くコーヒーショップが実在するのであれば、このお店の前にはティーンズ・ブティックもハンドバッグの店もないから、ここではないのかもしれないけれど、今は思わず、「麻子」を、今私のいるこの店のかわいいウエイトレスさんに、思わず重ねて読んでしまった。 

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アロマコーヒー
中央区八重洲2-1-1 (八重洲地下街内)
03-3275-3531