医者坊ってのは殺生だねェ。大晦日にあたいを寒空へほっぽり出すってぇのかい?


わかってますよぉ。病が治ったんだ。床を空けてくれってんだろ。それくらいあたいだってわかってますよォ。


だけどねぇ、だけどあたいの国は遠いんだよ。武蔵の国なんだよ。
いつも年の瀬には、晦日よりすこぉし前から、蝦夷を出て、
関所をいくつも越えて帰るんだい。
大晦日に放り出されたら、蝦夷で年を越さなきゃなんない。
おとっつぁんやおっかさんが蝦夷まで来るって言ったけどねぇ、
そんなこたぁさせられないよ。
ここは国中真っ白さ。
雪が降って、寒いんだよ。
年寄りに風邪でも引かせたら、あたいおてんとさまに怒られちまうよ。


あ~あ、養生所の受像機は衛星放送が見られるんだよ。
うちのはだめさ。
「蒼穹の昴」見んの楽しみにしてたのにさ。
あたい田中裕子が好きだからね。


というわけで、あけましておめでとうございます。
正月っから妄想につき合わせてすみません。
でも、内容はほぼ事実。12月27日から入院して、昨日退院しました。
ほんとは3日までの予定だったんですが、私の回復が思いのほか早くて。
いやぁ、回復したのはいいことなんですが、病院でゆっくりしようと
思っていた身には、ちと困った話し。
病後に飛行機に乗って埼玉に帰るわけにもいかないくて。
ま、たまった本でも読んでゆっくりしてますよ。


さて、私が江戸口調になっちまってんのは、最近落語にどっぷりはまってるから。
おもしろいね~
落語がこんなに面白いと思わなかったんですよ。
子どもの頃は、親が楽しみにしてる笑点にまったく笑えなかった。
大喜利も、落語そのものも。
なんだか予定調和の進行で、まるで笑わなきゃいけないみたいな気にさせられて。
でも、大人になって聞いてみると、日常もドラマも、喜びも悲しみも詰まってて、
だけど、お腹いっぱいにさせられたりしないんです。
さっぱりしたおいしいものをちょっと食べて、夕暮れ時、家路に向かう感じ。
その快感にすっかり虜になって毎日CD聞いていますよ。


落語は江戸の色んな町が舞台だから、自分が知ってる東京の町の昔を想像して楽しめます。
例えば、前々回、舞台にした沖田総司終焉の地には、千駄木の他にも候補地があるのですが、そのもう一つの候補今戸が出てくるお話しをこないだ知りました。


「今戸の狐」というおはなしで、掛け言葉がふんだんに配された粋なお話しだけど、
江戸の言葉で掛けてあるので、説明してもらわないとさっぱりわかりません。
ここで出てくる「今戸の狐」だって、昔のことを知らなきゃ
「江戸時代は今戸に狐がいたのかな」って思ってしまいます。
この「狐」、動物の狐じゃなくて、焼き物で作られた狐のこと。
江戸時代、今戸は焼き物で有名で、主に瓦作りが盛んだったそうです。
他にも、人形や七輪、火鉢なんかを作っていたんだそうですよ。


お正月らしく、もし初詣に行かれるなら、今戸神社はおすすめ。
縁結びで有名なんです。
4年前のお正月、今戸神社に初詣に行った友人が、その年に出合った人と結婚しました。
ま、確立は五分五分。だって、一緒に御参りに行ったのは私だからね。


 



落語一日一話


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