「・・・私は新聞で乃木大将の死ぬ前に残して行ったものを読みました。
(中略)それから二三日して、私はとうとう自殺する決心をしたのです」 『こころ』より抜粋
「乃木さん」と聞くと私は、『こころ』を思い出す。
夏目漱石の『こころ』は、青年期の悩みを書いた小説の中でも傑作の一つだ。
海水浴で鎌倉へ行った友人に誘われた「私」は、向かったそこで「先生」と出会う。
教養が深く、「私」と同じ帝大(東京大学)を出ているらしい「先生」は、
仕事らしい仕事もせず世捨て人のように暮らしている。
「先生」に興味をそそられた「私」は、とりつかれたように「先生」を訪問する。
「私は私自身さえ信用していないのです。
つまり自分で自分が信用出来ないから、
人も信用できないようになっているのです。
自分を呪うより外に仕方がないのです」
「君は私が何故毎月雑司ヶ谷の墓地に埋っている
友人の墓に参るのか知っていますか」
「又悪いことを云った。焦慮せるのが悪いと思って、
説明しようとすると、その説明が又あなたを焦慮せるような
結果になる。どうも仕方がない。この問題はこれで止めましょう。
とにかく恋は罪悪ですよ、よござんすか。そうして神聖なものですよ」
謎めいた言葉を発する「先生」が気になって仕方がない「私」。
第二章「両親と私」の最後で、先生の許を離れ、病床の父親を
見舞うために郷里へ帰った「私」に先生からの遺書が届く。
「この手紙があなたの手に落ちる頃には、
私はもうこの世には居ないでしょう。とくに死んでいるでしょう」
初めて読んだ若い頃、先生の気持ちがよくわかるような気がした。
苦しみや悲しみは永遠に続く気がしたし、それを手放すことは
薄っぺらで薄情なことのように思えた。
だけど、大人になるとそれにしがみついているのは弱さでしか
ないのかもしれないと思うようになった。
そして弱い人は冷たいと。
冷たい弱い人は、すぐそばにいる人を傷つける。
「先生」が死んで、妻静を傷つけたように。
さて、もう一冊、『こころ』を考察した「『こころ』大人になれなかった先生」を
紹介したい。
これはみすず書房刊行の「理想の教室」シリーズで、石田千秋さんという
早稲田大学の先生が書いたもの。
文学の重要なテーマ「父親殺し」という問題から『こころ』を読み解いている。
「先生」は、「父親殺し」を出来なかった=大人になることが出来なかった
という視点は、新鮮だった。
人の解釈は参考程度でいいと思うけれど、ここまで新しい視点を
突きつけてもらうと、昔読んだ本がまったく別のもののように感じられる。
この本の最後は「静は何を知っていたのか」という題名になっていて、
まるで推理小説を読んでいるような気になってくる。
思わず「おっと」と言ってしまった。
『こころ』が大好きな人にはオススメしないけれど、
「先生の気持ちちょっとわかるよな」とか「昔読んだな」って人には
読んでもらいたい目からウロコ落ちまくりの一冊です。
岩波書店
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おもしろい
読んで唖然としました。
人生の教科書ともいえる1冊です。
文豪の筆力に圧倒。
みすず書房
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青年期にも過ぎ去った後にも
大人になれなかったと言うよりも・・・・・
買いです。
「こころ」を読んだら、ぜひこの本も読んでみて!!
なるほどなあ~と思いました。
自分のことだけでせいいっぱいだと、
人のこと考えられないものねー。
同じことを、わたしはなんとなく器ってもので捉えてました。
器がちっちゃいとすぐに自分のことだけでいっぱいになっちゃう。
器がでっかいと人のことを受け入れてあげる余地がある。みたいな。
こころ、もう一度読んでみたくなりましたよ!