
二子玉川の岡本地区は、むかし「岡本村」といったそうです。最近、この岡本地区でおもしろい昔話を耳にしました。それは、たしかこんな話でした。
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たんと、むかしがありました。その年は、ふしぎなことがたくさんつづく年でした。秋になってもむしあつく、村をながれる多摩川には海水がさかのぼり、海の魚がとれるのです。イワシやサンマ、めずらしい魚によろこぶ村人たち。
そして海の魚がとれなくなると、こんどは多摩川沿いの村々で夜中にニワトリがないたり、犬たちがやたらと遠吠えをするようになりました。ネズミも猫も家からでていったきり、姿をみせません。そして井戸の水がへりだすなど、不気味なできごとがつづきました。年寄りたちは、村の行く末をとても心配していました。
そのうち、村々には地震がおこるようになりました。高台の岡本村は、地鳴りがしてひときわ大きくゆれました。村人たちは、とてもこわいとおもいました。ようやく地鳴りもおさまり、ほっとしたその日の夜のことです。村はずれの畑に、火の玉があらわれました。ゆらり、ゆらり、まるでせめてくるかのようにとびまわる火の玉? でもよくみると、それには赤いものと金色のものがあるようです。
村の名主は、先祖からの言い伝えをおもいだしました。"金の火の玉は、家を守ってくれる。ザルを被せて雨戸を閉めて、決して火の玉を逃がさないようにするのだ"
名主はすぐに、村人たちへ教えをつたえました。まもなく、岡本村を大地震がおそいました。それはとても大きな地震でした。迷信とわらい、なにもしなかった家は、ぺしゃんこにつぶれてしまいました。けれど言い伝えをまもり、火の玉をいれた家は、びくともしませんでした。
それからというもの、岡本村では金の火の玉は家をすくうとして、大切にあつかわれるようになったということです。
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現在は、世田谷屈指の高級住宅街となった岡本地区。しかしまだまだ自然も多く、夜は静かで真っ暗、ひとりでは何かに化かされてしまいそうな一帯も残されています。もし、あの火の玉が村の守り神であったなら? 彼らはまだ、岡本のどこかに潜んでいるのではないでしょうか。かつてない猛暑の続いた、2010年。もしかしたら今年あたり、二子玉川では金の火の玉が出現するかもしれませんね。
鎌田区民センター地下1階の鎌田図書館など世田谷区内の図書館では、「せたがやの紙芝居」として数種類、せたがやの昔話の紙芝居を置いてあります。