はじめまして。


白米マルコと申します。


この度、国分寺をテーマにコラム担当をさせていただくことになりました。よろしくお願いします。


 


白米が通っていた大学は国分寺にありました。思い出がたくさん詰まった町です。


通学時に、毎日のように国分寺の町を歩いてたもんで色んなことを想像していました。


 


国分寺は不思議な町です。小さな古本屋、レコードショップ、あの裏路地。


そこで、なんかちょっと笑えたり、暖かい気持ちになったり、恋をしたり、色々な出来事があるんです。


ここでは、国分寺で起こりそうな出来事を、マルコの妄想で勝手にショートストーリーにしてお届けしていきたいと思っています。


あくまで妄想から生まれたお話なので、登場する人物、場所、名称等等は実際に存在しません。


今日はこんなお話。


 


 


猫のキハチに起こされて、俺の一日が始まる。


『にゃあ~』

『・・おはよ、キハチ
。』


午前10時。
ボロアパート。
ここ、俺んち。


ココに住み始めて三年が過ぎた。
最初は床の軋みが気になって仕方がなかったし、壁のシミも気味が悪かった。
今となっては、最高に落ち着く。お気に入りの枕の様な存在だ。

たばこをくわえて、キハチに飯をやって、こんな朝が愛おしい。


『三年前はこんな日が訪れるなんて、思っても見なかったろうな。なぁキハチ。』

キハチは目を細める。

身支度をし、家を出る。歩いて五分くらいすると小さな古本屋が見えてくる。
ここが俺の仕事場だ。


俺は三年前までサラリーマンだった。
会社もまぁ名が知れてるとこだったし、給料も安定していた。
しかし毎日忙しかった。俺には忙しすぎた。
クタクタになるまで毎日毎日働き続けたが
、先が見えなくて。自分が任されていた仕事が終わったところで、俺は辞表を出
した。



古本屋の名前は平仮名で『なのか』という。名前の由来は知らん。
もともとこの古本屋は俺の叔父が営んでいたんだが、俺が仕事を辞めてフラフラ
していた頃に『旅に出たいからお前に任せる。どうせ暇だろ』と譲り受けたのだ
った。


開店時間は11時。軽く掃除してオープン。


大体午前中は客が全く入ってこない。俺は本を読んだり、手紙を書いたりして過
ごす。


しかし、今日は珍しい。オープンと同時に一名。

『・・いらっしゃいませ。』

小柄な、おかっぱの女の子が入ってきた。

ツヤツヤとした黒髪、長いまつげ。年は20歳前後といったところだろうか。女
の子は店内を見回して、時々本を取り出してみたり、棚に戻そうとした本を落と
しそうになったりしながら、一冊選んで俺の元までやって来た。

キャッチャーインザライ。
俺も好きだよこの本。
『250円です。』

女の子はやたらピカピカ光った小銭入れから250円を取り出した。

『な・の・か』


『え?』

『あたしの名前も、なのかって言うの。』


『・・へぇ。珍しいね。』


『ふふっ、でもお気に入りなんだぁ。』


買ったばかりの古本を頭の上に乗せ、女の子はニコッと笑った。
・・なにやってんだ?

『・・大学生?』


『はいっ。ここから歩いて20分くらいのとこの大学に通ってます。』
頭に乗せた本を落とさないように、ゆっくり入り口まで歩いていく。

『そう。。』
あれ、俺なんでこんなこと聞いてんだ?

女の子は引き戸に手をかけ、一度振り返った。

『お兄さん、また来ていいですか?』

開けられた引き戸から、ふわっと風が入り、甘い香りがした。


『・・うん。お待ちしてます。』


その日しばらく、なのかの甘い匂いが店の中を漂い、俺は本に集中出来ずにいた



なんなんだろうな、思春期の高校生みたいな気分だよ、オイ・・。


ボロアパート、キハチ、タバコ、古本屋という俺の毎日に、なのかという女の子
が追加されそうである。


・・俺もうすぐで30だけど平気かな。

でもなんだか穏やかな気持ちになっていく気がした。