阿佐ヶ谷の北口から左手に進むと、なんとも飲兵衛の心をくすぐるような飲み屋街が広がっている。

小奇麗なお店から、オヤジなお店まで、雰囲気は様々。
でも、どのお店もこぢんまりしていて、中を覗くと、カウンターがまず見えるのだ。
割烹着を来たおかみさんが1人だけとか、手拭いを頭に巻いた店主が1人だけというのが多い。

目的のお店につく前に、「ここも、あそこも、あぁ、あっちも行ってみたい!!」
と、寄り道したくなってしまうから困る。
そんな誘惑をぐっとガマンして、少し奥に入っていくと、淡い光を発する看板が見えてくる。

お店の名は 善知鳥(うとう) という青森県の鳥の名前。


この日は、久々に会う、大学の同級生かつ一児の母になったばかりでもある友人と
静かに語り合えそうな場所として選んだのだった。


開店と同時に入ったので、一番乗り。
前に一度来た時は、カウンターが満席だったのでテーブルについたっけ。
でも、やっぱりカウンターで店主の今悟さんや常連さんと語るのが楽しいというから
友人との語り合いも兼ねてリベンジしたかったのだ。


しかし、“一番乗り” しかも “常連ではない” という私たちだけしかいない空間に、
なんとなーく緊張している今悟さん。

こういうお店には無いかもしれないと思いながら「生ビールなんてのはありますか?」と聞くだけで、
ドキマギしながら 「す・・すいません、瓶ビールしか・・・ないんですが・・・」 と。

とっても腰が低くて、こちらまで恐縮してしまうけれど、瓶ビールといっても ハートランド

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「いいものが置いてありますね~。」 なんて言いながら、あのお寿司屋さんを思い出してしまった。

いきなり話しかけてしまうのも何なので、
まずは久しぶりに会った友人と、積もりに積もった色んな話に盛り上がる。

つまみは、のっけから 鯖の昆布〆 アワビの酒盗

ちなみにお料理メニューは、カウンターの中の棚にずらりと貼られている。

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さすが、青森の料理や、青森産の食材が多い。

ちなみに、この鯖も八戸港で水揚げされたもの。
お醤油つけた方が良いですか?と聞くと 「常連さんは、そのままで召し上がる方が多いです」とのこと。
食べてみると、確かに濃い味に〆てあるので、何もつけずに、ちょびちょびつまむのにピッタリ。


瓶ビールが空いたところで、日本酒を飲もうと思ったのだけど
ここはメニューを見る前に、どんなのがオススメか聞いてみることにした。

すると、「初めてのお客様には申しておきたいのですが・・・」と、丁寧に断りを入れる今悟さん。
いわゆる淡麗辛口というお酒は扱っていなくて純米がほとんど、という。

“いわゆる淡麗辛口” ・・・なんとなく、どの辺りの日本酒のことを言っているのか想像がつくのだけど、
わざわざ断りを入れてくれるあたり、
自分のお店に置く日本酒においては、本当に拘っているんだなぁ、と感心してしまった。

そして、オススメの中から 而今 無ろ過生原酒 を冷たいのでいただく。

以前に飲んだものよりも雑味?とか味わいの広がりがまとまって、おっとりした感じ。
でも、日本酒に飲みなれていない&旦那が八海山好き(まさに“いわゆる端麗”)という友人は、
「甘くておいしいね!」と絶賛。

よく飲んでいるのが八海山であれば、そりゃ而今のお米の旨味とか生原酒の味わいなんかは
より一層、甘く、旨く、感じるのではないかしらん。


次も冷たいもので、と思いメニューを見ると、若水 を発見。

隆の中でも若水が好み、という話をしたら
今悟さんが、隆は実は4,5年前にガクンと味が落ちたようです、と教えてくれた。

それは知らなかった!
このお酒を初めて飲んだのは半年前ほど。
その時は、とってもおいし~い!と思ったのだけど、それでも味が落ちていたとは。

でも実は、蔵元さんは、味が落ちたものを従来通りに売るのではなく
少し熟成させて味がのってきたものを売り出すような努力をしているんだとか。

造るだけでなく売るという事も色々大変なんだなぁ、と思っていたら
応援したい気持ちでいっぱいになり、やっぱり飲みたくなって注文。

而今の後だと、お米の固くどっしり感を余計に感じる。
而今を女性にたとえるなら、隆は男性といった印象。
もっともっと寝かせても美味しくなるような味わいかも。


お料理は続いて、牛すじの角煮 ふわふわ焼き を。

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(照明がだいぶ暗く、綺麗に写らなくてごめんなさい)

牛すじは3日間も煮込んだというから、「とろっとろ」かと思いきや、これが意外としっかりしたスジ。
ぷるんぷるんで厚みのあるコラーゲンも結構噛みごたえがあるのだ。
これは、とっても良いモノを扱っているんだろうなぁ、と思った。
出汁は薄味、なのに色んな味わいが出ていてとっても旨い。

そして、ふわふわ焼きが、かなりハマる!
トロロを混ぜ込んだ、いわゆる卵焼きなのだけど、ねっとりふわふわ~。
お箸が止まらなくなってしまう。


次はお燗かなぁ・・・と思いつつ、右脇に飾ってあった 初駒 の空瓶を見ながら
「このお酒も、つい最近飲んだけど、美味しかったなぁ」と言うと、この言葉を逃さなかった今悟さん。

どこで飲まれたんですか? え、お寿司やさん?!
それって、どこのお寿司屋さんですか?
ええ?!中井ですか?!

「まさか、そのお寿司屋さんをご存知なんですか?」 と聞くと、その店主とは良いお友達なんだとか。

なんとまぁ! そんな繋がりがあったとは!
一番最初のハートランドの瓶ビールでイメージが重なったのも間違いではなかったか。
初駒のそのラベルも、そのお寿司屋さんともう一軒にしか東京では見かけないハズだとか。

「よく行くんですよ」 なんて話をしたら、
隣の常連さんたちも、「私も良く行きますよ!先週も行っちゃった~」 と、なぜか大盛り上がり。
ようやくお店全体に馴染んで会話が出来た瞬間、やっぱり楽しいものだ。


そして、肝心のお燗は 庭の鶯 を注文。

お燗ができあがると、今悟さんはお猪口2つを出して、
また丁寧に「お猪口が違うと味わいも違うんですよ」と説明をしてくれた。

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自宅でも、まさに、この2つのタイプのお猪口で飲み比べをして、
旨いと感じる方で飲むようにしているのだけど、こうしてお店でやってもらえたのは初めてかも。
友人も違いにびっくりしているから、なんだか嬉しい。

ちなみに私たちは2人とも、この庭の鶯には、深い方のお猪口がしっくりきた。
味わいや旨みなどが、「俺が俺が」という主張をしているのが分かって、しかもそれがまた旨いのだ。


ちなみに、このお店は、店主一人でまわしているので
お料理もお燗も、そうそう早く出てくるワケではない。

むしろ、ゆっくりじっくり、待つことを楽しめる時に行くべきだろうか。
時間がスローに流れる友人と一緒に飲むにはピッタリなお店だった。

2人で楽しく語り合うこともでき、今悟さんや常連さんとも楽しく盛り上がり、
最後にお店を出るときも、みんなから 「おやすみなさ~い」 と声をかけられる。

とっても気持ち良くお店を後にすることができた。


・・・そう、お店は最高だったのだ。
でも友人の一言が、・・・(涙)。

他の人は「どーでもいいじゃん」なんて思うかもしれない一言・・・それは



妊娠してから母乳をあげている間まで、飲んじゃダメだからね!!




うぅ・・・やっぱり?やっぱりダメですか?

そりゃ、結婚なんて、まだ出来るかどうか目処も立っておりませんとも。
相手が見つかったとしても妊娠なんて本当にできるかどうか、わかりませんとも。

しかし!それはそれ、これはこれ。お酒好きな女性は、この困難をどう乗り越えているのか?!
私には不可能なのでは?!

などと、うなだれるのであった。

ちなみに、友人は母乳が出なくなったので、今は飲んでもOKらしい。
それを聞いて、すぐさま 「んじゃミルクで育てる」 と思った私は、きっと母親失格・・・。


[お店情報]
アクセス:阿佐ヶ谷駅から徒歩5分
住所:杉並区阿佐谷北2-4-7 
TEL:03-3337-8734
定休日:日曜
営業時間:19:00~??

[飲めるお酒]
善知鳥をはじめ、青森のお酒や
その他の時期のお酒を入荷。
全てお燗につけてくれる。