2007年末、その知らせは唐突に舞い込んできました。
台東区・日本堤の廿世紀浴場、廃業-
廿世紀浴場といえば創業昭和2年、その歴史もさることながら奇跡と言わんばかりの古体。
そして大変珍しいアールデコ調の意匠、銭湯好きの間では全国に知れ渡るほどの一軒です。
その夜、私は仕事のあとに駆けつけました。
あれだけの名銭湯です。別れを惜しむ人たちで、さぞかし賑わっていることでしょう。
しかしどうでしょう、その静けさといったら。
お客さんはわずかに1,2人、しかも彼らが出て行ったあと、
私は数10分にわたってたった1人とり残されたのです。
昭和期にはあれだけ隆盛を誇った銭湯が、この有様です。
そこに私は、この世の無常を見ました。
そして東京銭湯の行方を見定めるべく、八拾八か所お遍路の旅を、自身に課しました。
さて、逆境真っただ中の東京銭湯ですが、その未来はどうなるのでしょうか。
結論からいえば、向こう数十年で銭湯が無くなることはないでしょう。
しかし残るのは最新型の設備を備えたごく一部の物件のみであり、
それらを除いた大部分は、姿を消すことになるでしょう。
設備の老朽化、入浴客の減少、経営者の高齢化。
取り巻く問題は、枚挙に暇がありません。
健在に見えた銭湯が廃業していく様を、私は幾度となく見てきました。
現在の代で終わりという切実な話は、何度聞いたか思い出せないくらいです。
残念ながら、今後も廃業の嵐が止むことはないでしょう。
我々が黄昏時の情景に描く、ノスタルジーの対象としての銭湯は、遠からず姿を消すでしょう。
しかし私は、現状を黙って見ていることができませんでした。
消えゆく伝統文化の悲痛な声に、耳を塞いでいることはできませんでした。
残念ながら私には、この逆境を変える力はありません。
ならば東京に銭湯が存在した証だけでも、せめて記録に残したい-
そう思ったとき私は気付けば、カメラを手に家を飛び出していました。
それが、このコラムを始めたいきさつです。
あなたの町には、まだ銭湯がありますか。
もし銭湯が残されていたならば、一度きりでも結構です。
ぜひ、足を運んでみてください。
暖簾を潜れば先人たちの愛したニッポンの源風景が、
きっと今でも息づいているはずだと思います。
おや、今年も除夜の鐘が聞こえてきましたね。
そろそろ、お別れの時が来たようです。
夜明けと共に、私は新たな出会いを求め旅立ちます。
北へ、それとも西へ-
それはきっと、明日のおてんと様が決めてくれることでしょう。
トーキョー銭湯、八拾八か所お遍路の旅。
長い間お付き合いくださり、誠にありがとうございました。
2009年12月31日
今年も、残り少なくなった-
台東区・日本堤の廿世紀浴場、廃業-
廿世紀浴場といえば創業昭和2年、その歴史もさることながら奇跡と言わんばかりの古体。
そして大変珍しいアールデコ調の意匠、銭湯好きの間では全国に知れ渡るほどの一軒です。
その夜、私は仕事のあとに駆けつけました。
あれだけの名銭湯です。別れを惜しむ人たちで、さぞかし賑わっていることでしょう。
しかしどうでしょう、その静けさといったら。
お客さんはわずかに1,2人、しかも彼らが出て行ったあと、
私は数10分にわたってたった1人とり残されたのです。
昭和期にはあれだけ隆盛を誇った銭湯が、この有様です。
そこに私は、この世の無常を見ました。
そして東京銭湯の行方を見定めるべく、八拾八か所お遍路の旅を、自身に課しました。
さて、逆境真っただ中の東京銭湯ですが、その未来はどうなるのでしょうか。
結論からいえば、向こう数十年で銭湯が無くなることはないでしょう。
しかし残るのは最新型の設備を備えたごく一部の物件のみであり、
それらを除いた大部分は、姿を消すことになるでしょう。
設備の老朽化、入浴客の減少、経営者の高齢化。
取り巻く問題は、枚挙に暇がありません。
健在に見えた銭湯が廃業していく様を、私は幾度となく見てきました。
現在の代で終わりという切実な話は、何度聞いたか思い出せないくらいです。
残念ながら、今後も廃業の嵐が止むことはないでしょう。
我々が黄昏時の情景に描く、ノスタルジーの対象としての銭湯は、遠からず姿を消すでしょう。
しかし私は、現状を黙って見ていることができませんでした。
消えゆく伝統文化の悲痛な声に、耳を塞いでいることはできませんでした。
残念ながら私には、この逆境を変える力はありません。
ならば東京に銭湯が存在した証だけでも、せめて記録に残したい-
そう思ったとき私は気付けば、カメラを手に家を飛び出していました。
それが、このコラムを始めたいきさつです。
あなたの町には、まだ銭湯がありますか。
もし銭湯が残されていたならば、一度きりでも結構です。
ぜひ、足を運んでみてください。
暖簾を潜れば先人たちの愛したニッポンの源風景が、
きっと今でも息づいているはずだと思います。
おや、今年も除夜の鐘が聞こえてきましたね。
そろそろ、お別れの時が来たようです。
夜明けと共に、私は新たな出会いを求め旅立ちます。
北へ、それとも西へ-
それはきっと、明日のおてんと様が決めてくれることでしょう。
トーキョー銭湯、八拾八か所お遍路の旅。
長い間お付き合いくださり、誠にありがとうございました。

2009年12月31日
今年も、残り少なくなった-