2008年節分の日、カーテンを開ければ一面の雪景色。
たしかに前日から冷え込んでいたものの、
東京でのまとまった積雪などいったいいつぐらいぶりだろう。
あまりの寒さに寝床へ戻ろうとしたのだが、ふと思い浮かんだ「千住、行こう?」
 
大都会東京に今なお人情と風情を残す町、足立区の北千住。
宿場町らしい下町情緒に昨今人気が高まりつつあるが、
千住は銭湯の町としても、その名を広く知られている。
町の大きさに比べてももともと数が多いうえに、
東京、いやニッポンを代表する名銭湯があるというではないか。
ならばこの目で、見に行こう。
風情溢れる雪景色、しかとこの目に焼き付けよう。
 
思い立ったが、早かった。気がつくと、電車の中にいた。
初めて訪れた北千住、そこで一番に目にしたのが、この佐原浴泉だったのだ。
見たこともない不思議な懸魚飾り、大きな大きな千鳥破風。
行きなれた世田谷あたりと、違いは一目瞭然だった。
 東京には、こんな銭湯があったんだ?
巡りに巡った今でこそ見慣れた姿だが、あの時の感動は忘れられない。
佐原浴泉は、東京銭湯の底力を肌で知ることとなった、
個人的に思い出深い一軒として私の心に刻まれている。
 
だがその佐原浴泉も、10月末をもって廃業した。
理由は、聞けなかった。場所も千住の町外れ、目立った設備もなく
お客さんも決して多いとはいえなかっただけに、やむを得ない時代なのかもしれない。
伝統的な造りというのは裏を返せば、老朽化の危機に面しているということでもある。
 銭湯の町、千住?
その崩壊は遠からず、雪崩のようにやってくるのではないだろうか。
私には、千住だけが廃業の嵐と無縁であるようには思えない。
 
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○ 佐原浴泉
 
住所 東京都足立区千住元町22?10
 
※ 2009年10月31日をもって廃業