風情ある小路の残る神楽坂、その中でも最も好きな路地はと問われれば、
私は迷いなく、熱海湯脇の石段を挙げるだろう。
上側に立てば、鼻のいい人ならほのかに漂うお湯の香りに気がつくはずだ。
一段一段踏みしめる度に濃くなる香り、時おり響いてくる桶の音。
石段を下りきり顔を上げれば、干された色とりどりの足拭き絨毯が迎えてくれる。
 
古風な花街に忽然と現れる、熱海湯。
500軒に届こうという銭湯巡りの旅においても、これほどまで街並みに溶け込んだ一軒に、
私はいまだ出会ったことがない。
坂と路地に挟まれて、少々窮屈そうな間取り。
だが温もり溢れる木の香り、艶やかなタイル絵、威風堂々の富士山?
小さな空間ながらも古き良き魅力が凝縮された熱海湯は、
東京を代表する名銭湯と呼んでも過言ではない。
大正時代から、東京きっての花街として知られた神楽坂。
「熱海湯は芸者でもっていた」とはご主人の弁、かつては若い芸子さんで大賑わい。
そして朝は三味線の稽古、夜はお座敷からの嬌声で、ゆっくり眠る暇すらなかったと聞く。
 
昨夏、名古屋からやってきた友人が東京の銭湯に浸かりたいと言ったとき、
真っ先に思いついたのがここだった。
たびたび東京を訪れるうえに、「地図が読める女」を自負する彼女。
へたな東京人以上にその地理に精通していたようだが、
よい意味で、東京に対する印象を裏切ってみせたに違いない。
 
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○ 熱海湯
 
住所 東京都新宿区神楽坂3?6
電話 03-3260-1053
営業 15:00~25:00
定休日 土曜