弦巻湯(つるまきゆ)を訪れた回数は、それほど多くない。
三茶のジムへ電車ではなくたまにバイクで行った帰り道、
気まぐれにふらりと寄っていたのがここだった。
東京銭湯として、とりたてて目立つ造りがあるわけでもない。
しかし数年前、当時恋した女性が2人と連続してこちらの常連だったという偶然から、
二子玉川の新寿湯と並んで、自分には最も思い入れの強い銭湯のひとつである。
 
むっとくるアスファルトの香り、小洒落たおとなりのカフェOmmbla、響き渡る蝉の声?
のんびりした世田谷の弦巻通りは、初めて訪れたあの夏と全く変わらない。
ただひとつ、弦巻湯がなくなったことを除いては。
弦巻湯は見る影もなく取り壊され、跡地には夏草が生い茂っているだけだった。
ここにきて思い出すのは、表舞台を夢見て日々練習に明け暮れていたバレエダンサー。
彼女は今ごろ、いったいどうしているだろう。
思いを巡らせるも、なぜかあの笑顔が思い出せない。
弦巻湯とともに、楽しかった思い出までもが消えてゆく。
 
 
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※ 第四拾伍番札所 ~ 弦巻湯 ~ 世田谷区・弦巻