田園都市線の駒沢大学駅からすぐ近く、
東西に伸びる弦巻(つるまき)通りにひとつの銭湯がある。
その名も、弦巻湯。
質素で素朴でこれといった主張もない、世田谷の小さなお風呂屋さんだ。
 
 
自分はこの銭湯に、不思議な縁がある。
東京にきて、心から好きになった女性僅かな2人の双方が、
なんとこちらの常連さんだったということだ。
中でも忘れられないのは、古風な銭湯とはおよそ結びつかない年下の華奢なバレリーナ。
弦巻湯とは、全く関係ないところで知り合った。
キックボクシングの試合を前に、中学以来となる体重への減量に取り組む自分に
公演を控えた彼女の境遇が重なったのか、不思議な興味を持ってくれたのが始まりだった。
 
一緒に銭湯へ行くことはなかった。
お互いに、やるべきことが多すぎたから。
けれど弦巻湯は2人の夢や希望を語らう中に幾度となく登場し、
その度に、夕暮れの暖簾を仲良く潜る風景へとささやかな憧れを抱いたものだった。
 
 
だがそれも過去の思い出、もはや連絡先すら分からない。
そして弦巻湯も、今月いっぱいでの廃業が決まった。
"もしかしたら壁一枚の向こうで彼女も今、同じこの壁絵を眺めているんじゃないか? "
そんな淡い空想でさえも、もうあと何回もできなくなってしまった。
 
 
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○ 弦巻湯

住所 東京都世田谷区弦巻2?8?2
電話 03-3429-0507
営業 15:00~25:00
定休日 木曜
 
※ 2008年10月31日をもって廃業