町田市は東京都の端に位置するため、下りの小田急線から眺める景色は
電車が進むに従って緑が多くなり、どんどんその様相を変えていく。
 
しかし町田の駅前は、"modi"、"109"といったファッションビルがそびえ立つ立体交差。
老若男女、多くの人々が行き交う一大繁華街だ。
それらに押されるようにして、以前は10軒以上あったという銭湯も中心部からは
すべて姿を消し、今では残る4軒が徒歩20分近くする位置に散在するのみとなっている。 
 
 
駅前大通りを西方へしばらく歩くと、森野の住宅街の中に忽然と小麦畑が現れる。
龍の湯は、そんな中に囲まれるようにひっそりと建っていた。
両脇には大きな杉といちょうの気が茂り、あたかも深い森の中にいるかのような錯覚に陥る。
 
 
machida_tasunoyu_01.jpg
 
machida_tasunoyu_09.jpg
 
machida_tasunoyu_02.jpg
 
 
玄関の下足箱は味の出た木製で、都心では見たこともない、古い古い『おしどり』の錠。
脱衣所では番号入りの木製のロッカーが出迎えてくれ、浴室にはのどかな演歌が流れる。
古めかしくも、お掃除好きなおかみさんのおかげで縁側の庭にはひとつの雑草も見られない、
町田ののんびりお呂屋さんだ。 
 
 
machida_tasunoyu_03.jpg
 
machida_tasunoyu_06.jpg
 
machida_tasunoyu_07.jpg
 
 
そんな龍の湯だが、5月の30日をもって長い歴史に幕を閉じた。
理由についておかみさんは、
「子供を育てるためにここを始めたのよ。
 やっと一人前になったし、もういいと思ってねえ」と穏やかに笑う。 
 
生まれ育った新潟に帰ったら、やりたいことが山ほどあるそうだ。
その目は明るい希望に満ちていた。
しかしおしゃべりの合間につくため息からは、断ち切れない未練が垣間見えるようでもあった。 
 
 
頭を下げ、番台の脇の戸を開けて出ようとすると、何かが入った白い袋を手渡された。
中には、かわいらしい龍をプリントしたタオルが入っていた。
"店を閉じたら、お客さんにこれをやってくれ"
去年亡くなった旦那さんが、最後に残した遺言だと聞いた。
 
 
machida_tasunoyu_08.jpg
 
 
 
○ 龍の湯
 
住所 東京都町田市森野3?10?27
 
※ 2008年5月30日をもって廃業