自分は栃木県宇都宮市の出身で、18からの大学生活4年間を静岡で過ごした。
下手に近いぶん東京への憧れというのは半端でなく、
山手線から眺める街のひとつひとつが宇都宮、静岡といった
自分の住んだ都市を軽く凌駕することに、東京の大学へ進んだ友人を
それはもう羨んだものである。
 
豊島区の池袋は、高校以来一番の友人が8年間暮らした街だ。
そして東京の服屋巡りや就職活動の際、彼の家を訪れてはその度に
自分に「東京 = 繁華街の大都市」の図式を深く摺り込んだ街でもある。
だから上京して4年が経ち、ようやく東京が分かり始めた今でも、
このような古めかしい銭湯が現存しているのを見つけると、
抱いていたイメージと実際とのギャップを強く再認識させられるのだ。
 
 
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ちょっと表の要町通りに出れば、池袋駅が手に届きそうな新栄湯。
脇には勢いのよい緑が茂り、玄関前には大きな庭石。
引き戸を開ければ、この間までどこの銭湯でもオブジェの如く
押し黙っていた三枚羽根のプロペラが勢いよく回転していることに、
改めて4月の陽気を実感させられる。
脱衣所の仕切り上には、それはそれは大きな海亀が。
周りの剥げかけた壁と同じく、相当な年代物であるようだ。
 
自分がTシャツを脱ぎ始めると、初めてこのような銭湯に来たと見える3人組が訪れた。
ちょうど自分と同じ25,26くらいの、バンドマンらしき1組だ。
彼らは「この広告、まだ店あるのかよ。おい、見ろよ。上に亀がいるよ。」などと
たいそう物珍しがりながら服を脱いでいた。
そして涼しい顔で浸かる常連客の隣で、すぐに肌を真っ赤にしては急いで上がり、
「天井、たっけえ」と、また珍しそうに辺りを見回すのであった。
  
湯上りの表はもう上着も要らないほどで、近所のご婦人方が、
半袖姿のままいつまでも立ち話をしている。
そういえば例の友人は、もうすぐ東京を離れることになった。
しかし池袋で過ごした彼との思い出だけは、この街を離れることはないだろう。
 
  
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○ 新栄湯
 
住所 東京都豊島区池袋2?21?1
電話 03-3971-1883
営業 16:00~23:00
定休日 月曜(26日は営業)