とある噂を耳にした、2007年暮れのこと。
 
台東区の廿世紀浴場(にじっせいきよくじょう)が、2007年いっぱいで廃業になるという。
廿世紀浴場とはアール・デコを建築様式に取り入れた大変珍しい洋風の銭湯で(Wikipedia参照)、
我々銭湯ファンはもちろん、レトロ建築の愛好家にもその名は広く知れ渡っている。
ジム通いをとりやめて、急遽赴くことにする。
 
火の用心の一行が、日本堤の夜を練り歩く。
声を頼りに後追うも、すぐに下町の細い路地へ入り込んでしまう。
覗き込んだときにはもうその姿は見えず、かと思えばまるで別の方向から声が聞こえてくる。
不思議の国へアリスを誘うウサギのような一行? 
そんな声が響く路地に佇むのが、廿世紀浴場だ。
 
 
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教会のような厳かな外観が有名だが、夜は真っ暗闇に窓だけが浮かび上がって、
東欧の廃城のような雰囲気すら漂わせている。
 
 
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ラベンダー色の格天井や曲線を描いた窓はさすがの優雅な造りだが、
全体としては一般的な、古い型の銭湯だ。
壁絵こそ2年前(10月10日)に塗り替えられているものの、
壁のタイルはボロボロ欠けてトイレの窓もうまく閉まらず、
けっこうな経年劣化があちこちに見て取れる。
別れを惜しむ人でさぞかし賑わっているかと思いきや、
中には地元民と見える2・3人のみと、拍子抜けするほど静かな室内だ。
 
ふと、入浴客の中年男性に話し掛けられる。
近所から通っているというが、廃業の話も有名な銭湯であることも、全く知らない様子だった。
客の入りも、最近はいつもこんなものだったらしい。
ファンの間でこそある種神格化されている廿世紀浴場だが、
地元の人々にとっては何のことない、昔からそこにあっただけの存在でしかないのかもしれない。
廃業の話を聞きつけ川崎からやってきた、と話すと彼は
「変わった人もいるもんだ」と少しはにかみ、浴場を後にした。
 
 
廃業なんて、信じられなかった。
銭湯受難の時代とはいえ、あれだけ有名な銭湯がだなんて、想像だにしなかった。
まさに地元民あってこその銭湯なのだということを再認識させられた、2007年暮れのこと。
どうやら、残された時間はそう長くもないらしい。
壱番目の札所にてこの旅も、少し歩みを速めなければなるまいか。
 
 
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○ 廿世紀浴場

住所 東京都台東区日本堤1?34?1

※2007年12月31日をもって廃業