『ぼくはうみがみたくなりました』―町田発、三浦海岸行き。

トーキョー映画
2009/07/15 07:20 | コメント(0) | トラックバック(0)
  • 香ん乃

 明日美(大塚ちひろ)は看護学校にかよっているけれど、自閉症という障害について、なにも知らなかった。

 ひきこもりや、精神疾患の鬱病 ― これらの症状と、自閉症を、一緒くたにしていた。

 明日美の愛車・黄色のミニバンに、ひとりの青年が近づいてくる。かつて恋した相手に似ている彼を、思わず車に乗せてしまう明日美。

 東京都の町田市から始まったドライブの目的地は、神奈川県の三浦海岸。

 明日美が助手席に乗せた青年の言動は、少々、変わっている。淳一(伊藤祐貴)という名の彼は、自閉症なのだ。

 自閉症の長男を交通事故で亡くされた脚本家の山下久仁明さんが、「一人でも多くの人たちに自閉症のことを知ってほしい」という願いから著した小説『ぼくはうみがみたくなりました』が映画化された。

 山下さんは町田市在住。今作の主人公・淳一が暮らしているのも町田。

 町田にあるカフェ、大通り、各種施設で、この映画のロケはおこなわれた。町田市民のみなさんも、エキストラとして大勢、参加なさっている。

 ときにコミカルに、ときに騒々しく、そして、ときに、やるせない痛みをもたらして、淳一と明日美のドライブは続く。

 初めて会った淳一と短い時間を過ごしたことで、自閉症という障害について、淳一の考えている物事について、少しずつ、確実に、明日美は理解と気持ちを深めていく。

 明日美の視点は、この映画に触れる観客の視点と、きっと、同じ。

 感動を大げさに煽るような演出はない。「のほほんとしている」とすら表現したくなる、日常感が伴う映画。

 だからこそ、明日美の目を通して、明日美にシンクロして、淳一とのドライブを、観客がすんなりと体感することができる。

 淳一という人を、自閉症についてを、知ることができる。

 2009年8月22日から、渋谷区恵比寿の東京都写真美術館ホールで上映されるこの作品、ロードショーに先立って、町田市民ホールにて完成披露試写会が催された。

 舞台挨拶に登壇した山下さんは、「恵比寿(の東京都写真美術館ホール)にお客さまが集まって、この映画が知られるようになってほしい。恵比寿から始まって、全国へ広がってほしい」と語った。

 恵比寿に住んでいる私は、この言葉を聴いて、「恵比寿に暮らす自分が、町田の試写会で今作を観る機会に恵まれたのは、運命のひとつなのかもしれない」と、胸が熱くなった。

 しかし、同行の母は、「写真美術館なんて、座席数が少ないじゃない。あんな狭いところに客が集まったって、なんの宣伝効果もないわよ。この映画を作った人たちって、考えが甘いんじゃないかしらねぇ」と一蹴した。

 私の母には、こういう面がある。なにごとに対しても、侮蔑的で厭世的。冷たく響く言葉を呑みこむどころか、ここぞとばかりに大きな声で発言する。

「どうして、そんな悲しい解釈しかできないんだろう」と、苦しく思いながらも、適当にあいづちを打っていたら、「お母さんはトイレに行ってくるから、あんた、先に外へ出てなさい」と言って、母はくるりと踵(きびす)を返した。

 普段、外出先でトイレを使うことを、極力嫌がる母である。「公共のトイレを使うなんて、珍しいな」と怪訝に思って、私は言いつけ通りに外へは出ないで、階段の陰に隠れて、母の姿をこっそり目で追った。

 母はホール内に設置されていた自閉症支援団体の募金箱にお金を入れてから、この映画の前売券を買った。

 そのあと、トイレには行かないで、まっすぐに出口の階段へ向かってきて、先に外へ出たふりをしていた私と合流した。

 私は、なんというか......、自分が永いあいだ、本当のことや大切なものを、まったく見ようとしていなかったのではないか、と恐怖心と羞恥心を、同時に覚えた。

 帰りの電車でも、募金や前売券について、母は一切、明かさなかった。私も、敢えて訊ねなかった。

 ただ、「恵比寿に暮らす自分が、町田の試写会で今作を観る機会に恵まれたのは、運命のひとつなのかもしれない」と感じたことは、きっと、......錯覚ではなかったのだ。

 ところで、若手イケメン俳優の青田買いが趣味の私から、ミーハー情報をひとつ。

 この映画で淳一役を演じた伊藤祐貴さん、絶対に「買い」である。

 舞台挨拶に登壇した彼を見て、「なんだ、このかっこよさ!」と驚き、映画の中で輝きまくっていた微笑に腰が砕け、上映会のあとにロビーでお客さまと話している彼をガン見しながら、「やっぱり、相当かっこいい! この人、これから売れるに決まってる!!」と密かに確信の拳を握った。

 帰宅してパソコンを立ちあげたと同時に、インターネットで「伊藤祐貴」と検索。

 ほとんど情報がない。『ぼくはうみがみたくなりました』が、商業映画では初出演作品のようだ。

 どこのどなたなんだ? どういう経歴なんだ? 事務所には所属してるのか?

 ......ネットを徘徊した結果、某大学の演劇団体〔貴社の記者は汽車で帰社〕のメンバーさんと判明。

 その団体で、伊藤さんは「プリンス伊藤」と呼ばれて、王子様の地位についていらっしゃるそうな。

 この団体が『源氏物語』を上演した際、伊藤さんは頭中将を演じられたそう。み......、観てみたかった......。

「今後の公演で、伊藤さんがご出演になるときは、必ず観に行こう!」と鼻息荒くしつつ、この団体のサイトを、早速、ブックマーク。久々に大収穫の気分。

『ぼくはうみがみたくなりました』
2009年・日本・103分
監督:福田是久
原作・脚本:山下久仁明
出演:伊藤祐貴 大塚ちひろ 石井めぐみ 秋野太作 他
※2009年8月22日(金)より、〔東京都写真美術館ホール〕にて公開予定。


ぼくはうみがみたくなりました 


[PR]
コメント










画像の中に見える数字4桁を、半角で入力してください。

(利用規約)

(1)画像の中の文字がわかりにくい場合はプレビューを押して画像を再表示させてください。(2)時間帯によってはコメントの投稿に時間がかかることがあります。ご了承願います。(3)コメント投稿時にエラーがでても多くの場合コメントは反映されています。二重投稿にならないようご注意ください。

[PR]
トーキョー映画の最新記事
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://tkyw.jp/apps/mtos/mt-tb.cgi/2644
Google
トーキョー映画の最新記事
コラム一覧
総記事数:3464