ああ、やはりかー


梅の湯廃業の知らせを聞いて、思わず漏らした言葉だ。

戦禍を免れ、今なお多くの古風な町並みが残る北千住。

自ら"銭湯の町"を名乗るだけあり、戦前からのものも含め実に多くの風呂屋が現存している。
大黒湯、タカラ湯といった全国に名を轟かす有名銭湯たち、
しかしいずれも内装は、意外なほど近代的に改装されているもの。
その中にあって、千住でも一際古態を留めているのが駅西の梅の湯だった。

 
千住名物「かどやの槍かけだんご」の奥に聳え立つ煙突、

宿場通りを歩いてこの風景が見えると、私は妙にほっとしたものだ。

奥まった路地にひっそりと佇む木造の一軒家、店前には燃料用の薪が並ぶ。

しんとして薄暗い室内、真新しいものなどただのひとつも見当たらない。

宿場通りの喧騒とは無縁の空間、都内で最も昭和の面影を残す古銭湯の一軒であり、

その風情を求め、行きつけ以外では珍しく何度も足を運んだのが梅の湯であった。


だが千住の中ではもっとも駅に近い部類にもかかわらず、いつ行っても閑古鳥。

昭和の初期という創業、以来ほとんど改修が加えられていない内装は痛みも激しく、

わずか数100mの距離には規模も設備も充実の有名銭湯。
これまでよく持ったというのが、率直な感想だ。

どうやらご主人の目の調子が悪化し、医者に止められた様子。

薪割りにも支障をきたすようでは、継続していくことなどできるはずがない。


私が初めて訪れた3年前から、弁天湯、佐原浴泉、そして梅の湯-

見事なほど、古態を残すものから順に失われる千住名銭湯たち。

年々高層ビルが増え、古くからの町並みが狭間に埋もれゆく北千住だが、

のっぽな煙突が見えなくなった真の理由に人々が気付くころには、"銭湯の町"の面影はすでに無い。
 
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○ 梅の湯
住所 足立区千住5-5-10
※ 2011年2月28日をもって廃業