古来より東海道の宿場町として、陸と海の交通拠点を担ってきた沼津。
豊富な魚介類、温暖な気候、首都圏への便のよさ。
戦後にかけては保養地としても栄え、工業も発達し県内でも
有数の都市圏として栄華を誇ったが、近年は市域の人口も減少。
地方都市の例に漏れず、シャッター通り化する中心商店街。
長崎屋や丸井の撤退に象徴されるように日中の町並みもどこか活気がなく、
学生時代以来10年ぶりに訪れたこの日も、果たしてここがあの沼津なのか、
記憶を辿るのが難しくなる。
 
駅を南下し、狩野川を渡ると見えてくる煙突-
創業明治12年、沼津の栄枯盛衰を見届けてきた吉田温泉だ。
踏み入れるとひんやり、コンクリート打ちっぱなしの異空間。
戦後の建て替えに伴う施工だが、伝統の銭湯へこの手法を持ち込んだことは、
当時さも斬新でモダンに映ったに違いない。
 
昔はすぐ対岸に魚市場が存在し、威勢のよい海の男たちが訪れた。
浴室にはまん丸の愛らしい湯船、漁帰りの彼らが囲うようにして、
今日の成果で笑いあう姿が目に浮かぶ。
それを象徴するような古い断り書き、「入浴は40分以内」-
だが混みあうはずの夕飯前にもかかわらず、壁向こうの水音さえもが響いてくる静寂。
ほぼ貸切りのこの様子では、もはやこの一文が効力を発揮することはないだろう。
 
ご主人に別れを告げ、駅へと向かう。
駅前で新鮮な海の幸でもいただきたいと思ったが、閉じたままのシャッターの連続。
なかなか思うような店が見つからず、しばらく歩き回った末にようやく刺身の定食にありつくことができた。
上りの東海道線へ乗り込む。
 10年前、ここで会ったあの人は今頃どうしているだろう-
遠ざかる街の灯りに、学生時代の思い出がふと脳裏をよぎる。
 

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○ 吉田温泉
住所 静岡県沼津市吉田町2-16