会社帰り神田を歩いていると、ショーウィンドウに本がいっぱい置いてある喫茶店を見つけたので、入ってみる。

「クリスティ」という名前のお店。 若い会社員の団体客が入口近くのテーブルをいくつも占拠していた。
喫煙率が高かったので、彼らから少し離れた席に座りブレンドを注文する。テーブルの上の、金色ラメのメニュー立てが良い味を出している。
離れた席に座りながらも、彼らの話に聞き耳を立てる。彼らは順番に、自分の身の周りの「ありえない人物」の話をしていた。そして盛り上がっていた。とても盛り上がっていた。合コンみたいなノリだった。だけどよく聞いていると、「それは読者に刺さるよ」という言葉を頻発している。私も仕事でライターのようなことをしていた頃、何度か聞いた言葉だ。どうやら彼らは、本か雑誌のネタ出しをしているらしい。
ネタ出しがひと段落すると、彼らは玉置浩二のゴシップの話をはじめた。今日はよく耳にした話題だけど、案外、肯定的で好印象な意見が多いことに驚く。矛盾した魅力に人は弱い、ということになんだかにんまりしてしまう。

お店を出て、お店の入ったビルを見上げると、そのビルは早川書房だった。喫茶店の「クリスティ」は、ミステリ作家の「アガサ・クリスティ」から取ったものらしい。ということは、お店でネタ出しをしていた彼らは、ここの社員なのかもしれない。

神田の出版社のビルの中にある喫茶店は、とても本に親密な店だった。   

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クリスティ
千代田区神田多町2-2
03-3258-3800