暑いくらいの日差しで目が覚めると、ソファの上だった。

蔵前にある、友人のマンションのリビング。他人の家で目覚める朝は、なんだか不思議な安堵感を感じる。そして無性に歩きたくなる。昨晩の飲み会の残骸を片付けて、置き手紙をして、マンションを出た。

蔵前という街は、「祭」を思い出させる。近くに浅草があるからか、これから祭に行くんだという小さい頃のわくわくした気持ちがよみがえってくる。今日は本当に祭が近いようで、太鼓の練習の音が風にのって聞こえてきた。 蔵前は下町情緒の残る路地や古い建物も多く残っているが、大通り沿いはぴかぴかのビルやマンションが目立つ。

そんなビルのひとつの中にある「セブン」という小さな喫茶店に入った。入ると左手に、アーケードゲームがテーブルになっている席がいくつかあって気になったのだけど、ママに普通のテーブル席に案内されてしまった。

私が入るとすぐに男性客が入ってきた。彼はまっすぐ、アーケードゲーム席の一番奥に座った。常連なのだろう。注文と一緒に、ママにゲームの電源を入れてほしいと頼んでいる。
電源が入り、何かのゲームをはじめた、と思ったらまたママを呼んだ。ママが去っていってしばらくすると、またママを呼んでいる。手動で何かを設定しないと、ゲームを再開できないようになっているみたいだ。「すぐ負けちゃうんだよなあ」と男性客が独り言を言った。

私は窓際の席でコーヒーを飲みながら店内のテレビを見ていた。今日公開だという映画の主演女優が出ていた。映画は、癌に侵され余命が1ヶ月だと宣告された若い女性の物話で、実話が元になっているらしい。今日は家に帰って、少し休んで、映画館へこの映画を観に行こう。

店を出ると、初夏のようにさわやかな風に包まれた。やはり祭の匂いがした。  

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喫茶セブン
台東区浅草6-30-3
03-3875-1523