原宿通りを歩いていると、「L」という名前の小さな腕時計屋を見つけた。

3畳くらいしかない本当に小さなお店だった。ライオンと王冠のマークがかわいい、
「ORIENT」のピンク色の腕時計に一目ぼれ。店員さんに「ください」と言うと、彼女
はちらりと時計を見たあと、ちょっと面倒くさそうにケースを開けた。午後8時ぴったり。
きっと閉店の時間なのだろう。カードの決済をしたり、私の買った時計の包装をしな
がら、クーラーを消したりペンを棚に閉まったりしているので、会計にずいぶん時間
がかかった。

私がお店を出てすぐ、背後でシャッターの閉まる音がした。

竹下通りに出る。クレープ屋の甘い匂いが漂う。店閉まいを終えた古着屋の2階に、
「レピドール」という喫茶店を見つけた。黒猫の看板に引かれ、ドアを開ける。

お客は誰もいなかった。レンガの壁にたくさんのグリーンと絵画。今読んでいる、ディ
ケンズの「クリスマス・カロル」を鞄から出してテーブルに置くと、実によく似合う。

常連客がぽつり、ぽつりと入ってくる。マスターと常連客が会話を交わす。
「リウマチの具合はどう?」「まあまあだね。私が死ぬ前に、お店つぶさないでくれよ」
「もうカウントダウンがはじまってるよ。隣の店も壊しちゃったしさ」

ソーサーに少しヒビが入っているが、小さなノリタケのカップが上品だ。
コーヒーの香ばしさが口の中にやさしく広がる。とてもおいしい、と思った。

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レピドール
渋谷区神宮前1-16-5-2F
03-3478-5400
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