神保町の路地にある喫茶店、「ミロンガヌオーバ」に行く。

地下鉄神保町駅A7出口付近には老舗の喫茶店が密集している。その中でも
「ミロンガヌオーバ」は「コーヒーと世界のビールとタンゴコレクション」という不
思議な銘がうってあり、以前から気になっていた。

狭い路地にあるお店のドアを開けると、森の中で道に迷って、やっと見つけた
山小屋のような光景が広がっていた。木造りの薄暗いお店にタンゴが調子良く
流れ、お店の奥では男たちがビールで酒盛りをしていた。ただの仕事帰りの
サラリーマンたちなのだけど、なんだか山男のように見える。

感じのよいお兄さんに、お店の真ん中に置かれた大テーブルの隅の席に案内
してもらう。隣には、古本ハンターらしき常連のおじさんが座り、素っ気なくコー
ヒーを頼み、新聞を広げた。奥の部屋の山男たちは、どんどんビールを注文する。

向かいの席に、おじさんが座った。ざっくりしたセーターを着た、感じのよいおじ
さんだ。お店の人たちとも馴染みらしく、冗談を言ったりしている。
しかしこのおじさん、こちらをじろじろ見過ぎている。私は下を向いてコーヒーを
飲んでいたが、あまりにも気になるので、仕方なく顔をあげてにっこり笑い、「こ
んにちは」と言った。するとおじさんもにっこりして、「ご出身はどこですか?」と
聞いた。不意の質問に「新潟です」と思わず素直に答えてしまった。
そうしたら、「そうですか。いいところですね。新潟の北のほうにある、村上市の
大観荘はご存知ですか?露天風呂から日本海が眺められて、素敵ですよ」と
言われた。

びっくりした。私の故郷は村上市だし、大観荘には帰省すると必ずお風呂に入
りに行く。先日帰省したときも、もちろん行った。

おじさんについてを聞きかえすと、なぜかさらりとかわされた。本当か冗談か分
からないが、このお店には1年に2回訪れることにしているらしい。
「そんな貴重な日に、あなたに会えて嬉しい」とおじさんは言う。決していやらし
くはない。いつもこうやってお客さんをからかっているのかもしれないが、とりあ
えず、どちらでもよい。

狐につままれたような感覚になりながら、残念そうなおじさんの顔を後に、席を
立つ。お兄さんは「これに懲りずにまた来てくださいね」と珍客にあきれながらも、
なんだか楽しそうだった。

神保町の路地の山小屋での、不思議な出来事だった。

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ミロンガヌオーバ
千代田区神田神保町1-3
03-3295-1716
10:30~22:30
土日祝11:30~18:30
無休