「夢の中の風景」という古い本を買った。

著者は串田孫一。本は哲学的なエッセイだったのだが、装丁も著者がやっていた。
青のラインが素敵な装丁だった。
どんな人なのだろうと思って調べてみると、哲学者、詩人、装丁家、ラジオパーソナリティー、
フランス語教授など、いくつもの顔を持っていたようだ。

御茶ノ水駅の聖橋口すぐの「喫茶穂高」は串田さんにゆかりのある場所だ。
マスターは生前の串田さんと親交が深く、穂高は山好きだった串田さんが仲間と語らう場所
だったそう。
壁には串田さんの絵が何点か飾られていた(絵描きでもあったのだ!)。山小屋のような
雰囲気の店内にしっくり合っていた。灰皿にも、串田さんの絵が描かれていた。

お客は、サラリーマンなどの常連客が多い。平日の夕方早くだったので、一見さんは私ひとり
くらいじゃないだろうか。グリーンの別珍のソファにもたれながら、濃くてとてもおいしい
レモンジュースを飲む。缶詰のさくらんぼがちょこんと浮かんでいるのも懐かしい。
駅からすぐの場所とは思えないほど時間がゆっくり流れる。

音楽もかかっていない静かなお店のドアが、突然威勢よく開いた。
そしてひとりの少年が入ってきた。

「お忙しいところ恐れいりますが、マスターでいらっしゃいますか?」
と大声で言う。マスターが訝しげに彼を見つめる。

彼は続けてこういった。
「私は、20年前にこちらで働いていた、○○の息子です!」

たちまちマスターの顔がほころんだ。20年前の話なのにマスターはすぐに誰だか分かった
ようだ。関わりの深い人だったのだろう。

20年前の穂高に思いを馳せる。マスター、奥様、少年の母親。御茶ノ水の街は、どんな
だったのだろう。串田さんも、その頃はまだお店を訪れていたのかもしれない。

すてきな再会場面を見てしまった。


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喫茶穂高
千代田区神田駿河台4-5-3