皆様、大変ご無沙汰しておりました

35歳になったおたつが1年半振りにコラムをお届けいたします

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過去に 何度も 書いたけど

上北沢は~ 世田谷過疎地

病院 美容院 花屋はあるのに

肉屋 魚屋 なか卯は無い

飲食店も~ 結構あるのに 100円ショップと ミスドは無い

という変わった街なのですが、

『パン屋さん』も久しく無かったジャンル

以前は、駅北口を出てすぐの「えすてる」という小さなお店を利用していましたが、いつの間にかクリーニング店になってしまって・・・

上北沢で美味しいパンは食べられない状況でした

硬いフランスパンはスーパーでは売ってないため、隣町まで自転車を走らせる日々

そんな時に突如オープンしたのが、

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ベーグル専門店『Kepo bagels』

ベーグルのお店です。

ベーグルを食べる習慣のなかった僕には、ちょっと敷居の高いお店でした。

このお店がオープンしたのは2008年の春。

何度も視界に入ってはいたけど・・・

結局、訪れたのは2010年の春になりました

上北沢に住んでもう8年目。

未だ一度も入ったことのないお店が何軒あることか

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ベーグル悲恋物語

「あ、このベーグル・・・」


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晋介はしばらくこの黒い塊を眺めていた。

何度も食べたはずなのに、未だに正確に名前を言うことができない。

ただ、ベーグルに使われている香辛料だけは覚えている。

“キャラウェイシード”

独特な味のスパイスだ。

「あいつ・・・よく食べてたよなぁ。」

晋介は苦手だったが、相方のさとるは大好きだった。

さとると別れて半年、このベーグル店に足を運ぶことはなかった。

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ふと、プレーンベーグルが食べたくなって寄ってみたのだ。

以前は仕事帰りにほぼ毎日買っていた。

もちろん二人分。

さとるは黒い塊で、自分はプレーンのシンプルなベーグル。

白と黒。

まるで対のよう。

周りからはよく言われていた。

「あんたたちって全く違うタイプの人間よね。」って。

お互いを補うような・・・二人で1つのような。

晋介はそう言って貰えることが嬉しかった。

お互いがお互いを必要としている。

そんな関係が長く続くことを願っていたから。

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二人の付き合いは晋介の一目惚れからスタートした。

自分でも驚くくらい、積極的なアプローチだった。

さとるは完全に受け身。

夜の立場は逆転だったけど。

晋介は、さとるの男らしいところ・・・というと抽象的だが、“男”の匂いに強く魅かれていた。

女とも“できる”男、が醸し出す、独特な色気。

100%純粋なゲイは持ち合わせていないもの。

「アタシもあんな旦那が欲しいワ。」

さとるの“嫁”でいられることが嬉しかった。

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これで子供ができたら・・・普通の家庭を作れるのに。

さとるの子を産めたらなぁ~なんて、

決して叶うことのない望みを妄想していた。

「子供が欲しい」「家庭を持ちたい」って言われたら、なんにもできない。

男同士なら、誰も傷つけずに別れることができる。

“子はかすがい”って、よく言ったものだと思う。

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晋介の想いとは対照的に、さとるはあっさりしたものだった。

時々・・・女遊びをしてたみたいだし。

まあ、男だから仕方ないよね。

同じ生理を持っているからよく分かる。

普通は怒るのだろうけど、「じゃあ、別れよう。」と言われたらそれで終わり。

ライバルが女だなんて、ツラいよ。

何にも言えない。

一方は貞淑な妻。

もう一方は遊び人のモテモテ旦那。

今思えば、そんな状態も楽しんでいた気がするけど。

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一人嫁気取りで、さとるの喜ぶことは何でもやった。

食べたいというものは作ったし、洗濯や掃除もかいがいしくやった。

もちろん、好きなベーグルもよく買った。

通い妻が楽しかった。

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でも、そんな時間は長くは続かない。

付き合って一年経った頃、

「俺、好きな女ができたんだよね。」

「え・・・!?」

突然だった。

「・・・そっか。」

言葉が出ない。

「だから、お前とは・・・」「うん、分かった。」

予期していたことではあったけど、現実になるとキツイ。

「いろいろ、ありがとうな。」

「うん・・・。」

さとるは、友人としての付き合いを望んでいたようだけど・・・

別の女の元へ行く男と、何事もなく付き合えると思う?

到底無理。

さとるにとって、男との付き合いは友人の延長線上。

気心の知れた親友、だったんだと思う。

そうだよね、

勝手に“嫁”になってたのはこっちなんだから。

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さとるが着ていたTシャツを眺めながら、

涙が止まらなかった。

悲しいような、悔しいような、情けないような。

言いたいことはたくさんあったなずのに、言えなかった。

良き“妻”のままで終わりたかったのか、すがる惨めな自分を晒したくなかったのか・・・

結局、都合の良い“女”をやっただけ。

独り相撲の恋愛が、終わった。

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元気にしてるかな・・・?

久しぶりに黒ベーグルでも買ってみようか。

待っている彼はもういないけど。

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*物語はフィクションです。登場人物2名は実在していますが、両名とも女好きで既婚者です。個人的に妄想して楽しみました。お付き合いいただき、ありがとうございました。


今秋、2004年3月末からお世話になった街、上北沢を離れることになりました

それに伴い、上北沢コラムを卒業いたします

足かけ7年3か月、楽しみながら投稿させていただきました

掲載したお店は今も多くが残っていますので、ぜひ一度足を運んでみてくださいね

では、さようなら