「帰りにOKでかつおぶしを買ってきて。」
バイト終わり、駅近くのニューデイズ前で電話するとまさみちゃんはそう言った。
まさみちゃんが住み始めて三年目になるボロアパート。
いつだって甘く、柔らかい匂いがする。
「あ、おかえりなさい。」
まさみちゃんは猫を抱いて笑っていた。
「今月に入ってずっとなのよ。」
まさみちゃんはコーヒーを淹れながら時折僕を見て、飼い猫の『トマト』を見た。
『トマト』の元気がないんだという。
ご飯もあまり食べないし、少し歩いただけでぐったりとしてすぐに眠ってしまうらしい。
「猛暑だからね、今年は。人間でもこんな体がだるいんだ。猫なんて全身毛で埋もれているわけだし。」
「うん。わかるんだけどね。。でも、心配なのよ。」
僕が買ってきたかつおぶしを差し出すと、まさみちゃんは「ありがとう」と言って受け取った。
「こうして、キャットフードにまぶして、手にとってあげるの。」
『トマト』はゆっくりと起き上がり食べ始めた。
「・・・ふふっ」
まさみちゃんの肩が震えた。
「えっ、何、どうしたの?」
「いつもこれがくすぐったくて。っふふ。」
『トマト』は、キャットフードを食べながら、まさみちゃんの綺麗な手を舐めていた。
ゆっくり、じっくりと。
かつおぶしがまさみちゃんの細い指にくっついていく。
僕はなんだか、そんなまさみちゃんを直視することができず、必死に別の事を考えようとしていた。
「あ、今日泊まっていくよね?」
「うん、その、つもり・・・。」
外では蝉が鳴き、蒸し暑いボロアパートで扇風機がまわっていた。
僕は汗を流しながら、流し台で手を洗うまさみちゃんの背中を眺めていた。
蝉が鳴いている。
「・・私、汗かいてるよ?」
「そのほうがいい。」
欲情したのだ。
僕は力強くまさみちゃんの肩を抱いていた。