気が付くと、俺は家にいた。


どこを通って帰ってきたか、全く覚えていない。


着ていたダッフルコートを脱ぐと、甘い香りがした。


リコの匂いだった。


俺の手と、腕にはリコの感触と匂いが残っていた。


甘い香りは、まだ続いている。


 


時計をなんとなく見ると、もう夜中の三時過ぎだった。


「・・あー・・明日朝一でバイトじゃねーか。」


すぐ寝ようとしたのだが、目を閉じるとリコの顔が浮かんで、全く寝付けなかった。


『髭の生えた、女にだらしないあなたは、すきじゃないわ。』


そう言って、俺を睨むリコの顔を忘れることが出来ない。


思い出すだけで、俺はゾクゾクした。


落ち着かない。とりあえず散らかった部屋を片付けた。


そして、髭を剃り、今関係を持っている女の子にメールを入れた。


三人中、一人は返信は来ず、後の二人は深夜だというのに案外早く返信が来た。


内容は、全く一緒だった。


『死んでしまえ』


 


無理もなかった。


そういわれても仕方がないほど、俺は適当に関係を持っていた。


『本当にすいませんでした』


そう、もう一度メールを送り、携帯を閉じた。


もう、リセットしようと思った。


リコの記憶だけで、俺は生きていこうと思った。


 


冷たいけど、暖かかった、リコの肌は。


 


 


リコが受け取らなかったダッフルコートを着て、寝不足で頭がボーっとしたまま、駅前のコーヒーショップに向かう。


とりあえず、バイトだ。


「はよーございます。。」


「お、おはよう!なんだよそのダルそーな顔は!」


店長の岡田さんは、そう言って俺の背中を思い切り叩いた。


寝不足にはキツイ一撃だった。


「そうだ、ここで新メンバーを紹介しよう!!」


「新メンバー?」


店長の後ろからひょっこりと小柄な女の子が顔を出した。


「え・・・・?」


俺は、自分の目を疑った。


「今日から新しくバイトに入った佐藤さんだ。色々教えてやってくれな。」


「佐藤です。よろしくお願いします。」


 


嘘だろ?


その子は黒髪を揺らし、笑っていた。


口元には、ピアスをしていた。


変な汗が出て、俺は動揺した。


リコに、あまりにも似ていたから。


 


俺の動揺っぷりを見てか、その子は笑った。


「・・なんでだか、あなたと、初めて会った気がしないんです。なんか不思議ですよね。」


そう言って、照れくさそうに手を差し出してきた。


あ、握手・・・。


手を触れたら、その瞬間その子を押し倒してしまいそうだったので俺は笑ってごまかした。


その子は照れくさそうに笑って、さっと手をひいた。


「なになに~、いきなりいい感じっすか?」


岡田さんはいやらしそうな顔をして俺の顔を見た。


うっさいわ、このクソ店長。


 


「・・・よろしくね、佐藤さん。」


彼女の口元のピアスと、柔らかそうな胸を見て、ネームプレートを見た。


汚い字で『佐藤』と書かれていた。


 


俺はリコのことを、こうやって一生忘れることが出来ないのだと思った。