プランタンの裏あたりにある「手打ちうどん兎屋」。何年も、何年もこの前を通り過ぎ、昼時や夜は、「あ、うどんもいいな、」なんて思いつついつも素通り。特に深い理由があるわけでもなく。

ある時、近くの店で用を片付けた後、ふと、入ってみようかなと思った。これも、深い理由はなく。入った店内は、こう言ってはなんだけど、何の変哲もない普通の店でした。奥に調理場のある1階、小さな洗い場にエレベータ式に料理が上がってくる2階。壁は、ちょっと古い定食屋とかでよくあるように、変色していたり。メニューは多種多様、梅の入ってるもの、あさりうどん、丼物とのセット、胡麻風味・・・出てきた味もごく普通でした。値段は700円から1000円弱。

食べながら気が付いた。銀座でこんなにも「普通の店」って入ったことあったけ?この変哲のなさが銀座だからこそとても貴重な気がしてきました。

「よし、オレ、から揚げ丼。」隣のおじさんが座ってすかさず頼むのを聞きつつ、次回は私もから揚げ丼、と胸の中だけで言って席を立ちました。


なんだか入るきっかけのない店もあれば、足が思わず向いてしまった店もある。

銀座の大通りに面している履物屋さん、銀座やまと屋。
実は今、事情があって着付けを習っている。それで分かったのは、自分にあった草履の大切さ。
一度、合わない草履を履いて外出したら、もう、帰りはすり足、脳天まで痛くなって帰宅した。

草履を買わなきゃ、とはいつも頭のどこかにあった。だからだろうけど、やまと屋の、草履で埋まった細長い店の前を通ったとき、ふらふらふらっと、気が付いたら店の中。そこに出てきたお店の若い男性に事情を話したら、その人は、きっぱりと、「履物は関西より関東です。」と言い切った。

その真意がどれほどか分かるほど私は着物に詳しくないけれど、この言葉は頼もしかった。
一応他も見てみることにして店を出たが、結局数週間後、やまと屋で臙脂色の草履を買った。
あの頼もしいお兄さんはいなかったけど、代わりに年配のおじさんが二人、親切にあれこれと教えてくれた。ついでに、持って行った、足に合わない草履もちょこっと直してくれた。

細長い店内のカウンターの向こうは高くなっていて畳になっていた。そこにおじさんが座って、置いてある作業台のようなところで草履を合わせてくれた。一瞬、銀座のど真ん中にいることを忘れるほどのんびりとした時間が流れていた。帰ってから開けた箱の中には店の名前と電話番号の記載された紙が入っていて、創業明治二十三年とあった。


ところで、今朝、どうしよう、ということを聞いた。

1丁目にあるポーラ化粧品のビルにあるCafe Tune。どうやら閉じるらしい。
「どうしよう、」なんて、大げさかもしれないけれど、ここを愛用していた者にとっては、本当に、ああ、どうしよう。

ここは本当に便利な店だった。雰囲気が良くて便も良い割りにいつも若干空いていて、大抵は入れた。平日の中途半端な時間に一人で行っても落ち着ける、お茶もお昼も出来る本当に助かる店だった。

実は、以前に書いたカフェの記事のZerkovaの後は、ここの事を書こうと思っていた。思っているだけで、なかなか書かなかったら、記事より先に店が無くなってしまうことに。

ビルの1階だけど、歩道から大きく奥まり、階段で数段上がったところにあるこの喫茶店は、店内から外を見ると、大通りの景色が額縁に入った一枚の絵のように見え、で、なんだかこっちも絵の中にいる気分にもなる、ちょっと不思議な空間でした。私は勝手に「エドワード・ホッパーな店」と名付けてました。

中はモダン、というよりポップ。大きな楕円形の低い白テーブルが並び、向かい合わせにグレーが買った水色のソファのような椅子。カウンター前のスペースにはスチールの椅子と丸いテーブル。

実は、この店、以前はもっと喫茶スペースといった固い雰囲気の場所だった。でもその頃から、ゆっくり過ごせるし、サンドイッチが美味しい、と私の周りでは重宝されいた。そこが一瞬閉じたときも心配したけれど、改装後の今の店に喜んだのを思い出した。

ここのミルクレープは珍しいレモン味。でも、実はここのサンドイッチとドリアが900円くらいの値段だったと思うけど、ボリュームもしっかり、ケチケチしてなくて、美味しいのだ。


とりあえず、開いてるうちにもう一度は行こう。