「ねぇねぇ、こっちだよ、違う、上だよ、上で、、もうちょっと右っかわ!!」



今日は阿佐ヶ谷を縦断する中杉通りを南へ歩いていた。

阿佐ヶ谷駅の南口を出ると、すぐにロータリーを囲むように公園がある。その公園には噴水があり、噴水の中には天使が3人(天使は人で数えて良いのだろうか?)たたずみ、朝は駅へ急ぐ人々の足元を心配そうに見つめ、昼は主婦達に連れられた小さな子ども達の遊ぶ姿を微笑みながら眺め、夕方には家路をたどる人々をねぎらい、夜には酔っ払って帰るおじさん達の最後に会った人は笑顔でした、というマクドナルドのCMのように笑顔を送る。

そんな公園を抜け、そのまま中杉通りを南へ下っていたときである。声が聴こえて来た。


確かに道を歩いていて知り合いに出会う事はある。しかし、その声はどう考えても子どもの声である。もしや公園から天使がついてきて僕を天上界へと連れて行ってくれるのかなどと一瞬の妄想と共に振り向くが、そこにあるのは混沌とした駐輪地獄。


「上だよ、上、右!!!上!!!右、右上、AB!」


ABってなんやねん?などと不審に思いながら右を向くと入り口が階段になっている喫茶店があり、さらに上を見上げると、パンダのぬいぐるみが2階の窓からこちらを覗いていた。そして





「こっちこっち。そう、そこだよ、階段登ってAB!!」


だからABってなんやねん!と心の中で突っ込みを入れながら階段を上ると、そこはかわいらしくも落ち着いた喫茶店であった。



店内に入るとほっそりとした長い体のご主人が感じの良い笑みを浮かべながら、お客様がいらっしゃった事を心の底から嬉しく想っているという、マイナス要素などまったく垣間見えない笑顔と語調で

「いらっしゃいませ」

と言った。これはこれはと、あまりの感じのよさに僕はそのまだ若い30代半ばといったご主人にすぐに好感を持った。



ふとパンダを見ると、

「ねぇ、ねぇ、上だよ、違う一周廻ってワンって言ったら右の上でジャンプキック!!」

と、窓の外へ声をあげている。なんて切り替えの早い客引きだろう。やれやれかなわないなと思いながら、せっかくだから窓から通りの見える席に座る。



パンダ珈琲店 というだけあって、店内にはパンダだらけである、そしてメニューもパンダだらけ。。

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僕はもちろん『ぱんだセット』を注文する。パンダオレとパンダクッキーが付いているとのこと、ワクワクする気持ちが心臓の鼓動を早めるが、そんな興奮をご主人に知られまいと窓から往来を眺め、気持ちを落ち着ける。僕は自分の心を人に悟られるのが恥ずかしい、まだ子どもなのだ。


そういえば友達のお姉ちゃんがパンダが好きって言ってたなぁ、そういえばパンダってクマと仲間やっけ、まさかABとかふざけて言ってくるわけないしやな、そもそもご主人パンダって柄かよ、なんてどうでもよい思索ばかりしているとパンダセットが運ばれてきた。

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僕は案外こうゆうのに弱い、確かに予想はしていたが、予想通りにかわいらしく、また、予想以上にかわいかったからだ。憎い奴よのぅ、ご主人。などと心の中で呟きながら思わずにやついてしまうが、それもバレないように往来に顔を向ける。


読みかけだった文庫本を読み終え、一息つき、最後にカフェオレを飲み干す。後味には少し苦味がかった香りが鼻腔に残るが、それは読んでいた本の影響もあろうか。


僕は席を立つ、今度はランチでも来ようかと想いながら。




階段を降りながら振り返ると、パンダが小憎らしく笑っており、なんとなく悔しく想いながら向き直った瞬間、「イタッ」っと言っていた。頭上注意という文言がそこには刻まれていた。

してやられた。パンダにしてやられた。

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家に帰ってふと思う。そういえばパンダってどんな声なんだろう。


え?パンダは滅多に喋らないって??喋ったとして、あんな悪フザケタ言葉ちくしょうをつらつら並べたりする訳がない。だとぉ!?

ちくしょう、だまされた、パンダの中にテープレコーダーがしこんであったのか!!もしあなたがパンダコーヒー店に行く事がありますれば、パンダをくまなく調べてください。そして僕の方までご一報を




パンダ珈琲店
〒166-0004
杉並区阿佐ヶ谷南3-31-14
戸門中杉ビル2F