助手席に座っている40を目前にした、おじさん、僕から見ればお兄さんと呼べる人が口にした。

いつのまにか免許の更新を忘れ、レンタカーを借りるのに僕の免許証を借りるついでに僕が運転手となる。
出発してから気付く。僕は2年ほど車なんてまともに運転していない。完全なペーパードライバーである。半年程前に止まっている車に突っ込んで勝手にサイドミラーを一つ失った。兄の車だ。学生である僕は2年で15万ほど兄に借金を返済している。


そんな僕の運転でハラハラしながらこのけやき並木の通りを軽トラックで通過する。そう、「通過」する。


僕はお兄さんの引越しを手伝っているのである。処分する家具等で必要なものをくれるという事で他の作業を手伝っている。彼の家には一人暮らしの男の部屋の煙草の匂いが充満し、ブラウン管の25インチはあるだろうテレビ、なぜかわからない腹筋マシーン、長年使われていない本格的オーブン付きレンジなどがある。

彼は「普段はこのイスの上が生活空間だね。」と、革をあからさまに上から貼り直している社長イスを指差して笑った。



車中、僕は

「どうして阿佐ヶ谷に住み始めたんですか?」

と、聞いた。

彼は

「このけやき並木が気に入ったんだよ。」と言いながら、助手席から前に体を乗り出し、空を見上げる。そこにはもう葉が残っていない冬はじめのけやきが立ち並んでいた。


春は新芽が香り、夏は緑のトンネル、秋は黄色、冬には枯葉が通りの車と共に踊り、
カサカサと音を立てる。

僕は冬の入り口のこの カサカサ が好きだ。 乾いた心をくすぐりながらも、その葉は優しくアスファルトを包み込む。そんな カサカサ が好きである。



その並木は南阿佐ヶ谷の駅からJR阿佐ヶ谷駅の下を突っ切り、早稲田通りに向かって伸びている。

中杉通り  という。


と、阿佐ヶ谷初投稿を、実家である大阪から書く僕のパソコンは、未だに電話回線であり、もしかしたらメガどころか、キロバイト単位の通信しかしていない。


そんなフラストレーションの中、阿佐ヶ谷のコラムを担当します、羽根馬(ハネウマ)です、よろしくお願いします。