東京の銭湯も外れのほうになると、珍しい光景を目にする機会が多くなる。
畑の中に突如現れる町田の「龍の湯」、湯船に桜を咲かせる西東京の「妙法湯」。
そうそう東の江戸川区あたりでも、まるで江戸時代の湯屋のような銭湯に出会ったことがある。
都心近くとは異なって店主の個人的な趣味の要素も濃くなり、
建築様式も次第に違いが見られるようになるなど、
東京もいよいよ果ての果てにやってきたことを実感させられる瞬間だ。
 
そのひとつ、小平市に位置する上水湯。
外観は質素な1軒家、しかし抜けるように高い天井、だだっ広い脱衣所。
昔は土地にも余裕があったのか、郊外らしい東京銭湯といえるだろう。
そして男湯の扉を開ければ、否応なしに飛び込んでくるのが目上の大きな凧である。
これはご主人の出身地である新潟県、その親戚方による上水湯の開店祝いだ。
あまりの大きさに本当に飛ぶことができるのか疑ってしまうが、
凧上げの盛んな地元ではこれよりずっと大きなものが空を舞うというから、
これは驚くよりほかにないだろう。
 
しかし、もうこの大凧を目にすることは叶わない。
9月のはじめ、上水湯はひっそりとその歴史に幕を下ろした。
長年夫婦のみで支えあってきたものの、ご主人の持病の悪化により継続を断念。
昭和期には最大で10数軒の銭湯が存在した小平市も、これで残るはわずかに2軒となった。
しかもうちひとつは、店主から遠からぬ廃業を示唆されたことがある。
銭湯文化の崩壊は小平市においても、もはや秒読み段階といってよい。
 大凧から垂直に垂れる、一筋の紅の紐?
それが鮮血の涙に見えたのは、私だけではなかったはずだ。
 
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○ 上水湯
 
住所 東京都小平市上水南町2丁目3-20
 
※ 2009年9月1日をもって廃業